SWITCH SPECIAL対談 新海誠 × 川村元気 (前編)

   PHOTOGRAPHY:GOTO TAKEHIRO


SWITCH スペシャル対談
新海誠 × 川村元気


もはや説明不要の大ヒットを続けている映画『君の名は。』。その監督とプロデューサーとして制作を共にした、新海誠と川村元気の対談が実現。『SWITCH』12月号(Vol.34 No.12)掲載の記事では、映画『君の名は。』と川村による新刊小説『四月になれば彼女は』という2つの「恋愛」にまつわる作品を題材に、2人が「ラブストーリー」にどうアプローチしたのかを語り合ってもらったが、その記事には収まりきらなかった未掲載テキストをここに特別に公開


《 前編 》

海を越えた『君の名は。』現象



――公開後、国内では大ヒットが続いていますが、監督は海外の映画祭をいくつか回られています。スペインのサン・セバスチャン映画祭、韓国の釜山国際映画祭、イギリスのロンドン映画祭など。現地での反響をどのように受け止めていますか?

新海 何度か現地のお客さんと一緒に映画を観る機会をいただいたんですが、そこでのお客さんの反応には随分と勇気づけられました。笑って欲しいところで笑ってくれているし、「ここで笑うの?」というところでも笑ってくれて。国によって違いますが、例えば韓国では、三葉がお父さんのネクタイをぐっと掴み上げるところでなぜか笑いが起きて。

川村 そうでしたね。

新海 これは文化的なギャップで受けているケースだと思いますが、何よりも勇気づけられるのは、こちらが意図したところで笑ったり、泣いたりしてくれていること。例えば、三葉が瀧の手のひらに何かを書こうとした瞬間、ペンが落ちる、というカットがあります。お客さんがみんな息を飲むのがわかるんです。どの劇場でもそういう静かなザワつきが広がって。

川村 そのシーンはダビング(※制作終盤の音の仕上げ作業。画に台詞や効果音、劇伴などの音を組み合わせていく工程)でも悪戦苦闘したポイントですからね。ペンが落ちる瞬間のバサっと断ち切られた感じを音でどう表現するか。

新海 ダビングでもそうだし、その前段階の脚本会議やビデオコンテのやりとりでも大事にしたところでした。RADWIMPSの劇伴もバサっと切れる。それをどうやるかと試行錯誤しました。

川村 海外はお客さんのリアクションがはっきりしているから、反応してくれているかどうかは体感として伝わってきますよね。

新海 そうですね。ちゃんと考えて設計したことが伝わった喜び。それが実感できるのは嬉しいですね。




――川村さんは海外での反響をどう感じていますか?

川村 例えばスペインのサン・セバスチャン映画祭に行ったときに、物語の中に神道的な要素があったりもする作品なので、ヨーロッパの人がどう観るんだろうと思っていたんですけど、十二分に伝わっていたし、どこに行っても新海さんのサイン待ちの行列ができるんです。『秒速5センチメートル』を中心に過去作から新海作品を観てきた累積ファンがすごく多くて、海外でも人気者だなと思いました(笑)。

新海 ドサ回りじゃないですけど、そういうことはこの10年ぐらい国内外で繰り返してきたことなんです。何時間もサイン会をやって、お客さん一人ひとりと話をするのが喜びでした。今回は規模が大きくなってなかなかそういうことができなくなってしまいましたけど、やってきて良かったなと思います。

――台湾でも公開されて、大ヒットされているそうですね。

川村 聞きました?

新海 初週の週末1位だったみたいですね。

川村 歴代の日本映画で1位になるかもしれないそうです。今まで『リング』が1位だったんですけど、それを超える勢いだとか。

新海 それは嬉しいですね。海外で不安だったことの一つに情報量の多さというのがあって、新聞記事が一瞬映るカットなども、かろうじて文字が認識できるぐらいの短さでバサッとカットを切っているので、日本語が読めないと伝わりきらないんじゃないかと思っていました。RADWIMPSの野田洋次郎さんの歌もそうです。この場面でこの歌詞が聞こえないと十分には楽しめないんじゃないかと。でも台湾でのそういう状況を聞くと、たとえ言葉がわからなくてもエッセンスはきっと伝わっているんだと思えて、嬉しいですね。



《 後編へ 》

*対談本編はSWITCH本誌でお楽しみください


新海誠
1973年生まれ。アニメーション映画監督。2002年、個人制作の短編『ほしのこえ』でデビュー。その他の作品に『雲のむこう、約束の場所』。『秒速5センチメートル』、『星を追う子ども』、『言の葉の庭』など

川村元気
1979年生まれ。映画プロデューサーとして今年は『君の名は。』、『怒り』、『何者』を製作。『四月になれば彼女は』は、『世界から猫が消えたなら』、『億男』 に続く3作目の小説。他に対話集『仕事。』、『理系に学ぶ』など


<作品情報>



『君の名は。』
原作・脚本・監督:新海誠
作画監督:安藤雅司 キャラクターデザイン:田中将賀 音楽:RADWIMPS 声の出演:神木隆之介、上白石萌音 ほか
★現在公開中
http://www.kiminona.com/index.html
(C)2016「君の名は。」製作委員会




『四月になれば彼女は』
川村元気・著 文藝春秋
かつての彼女からの手紙を受け取った結婚間近の男が、失われた恋に翻弄される12カ月を描く。文藝春秋の特設サイトでは新海誠と星野源による推薦コメントを公開中。
★現在発売中
http://hon.bunshun.jp/sp/4gatsu



SWITCH Vol.34 No.12
古舘伊知郎
TALKAHOLIC
しゃべくる魂 テレビ屋の反乱

対談:新海誠 × 川村元気
『東京から恋愛が消えた?』
『君の名は。』と『四月になれば彼女は』掲載!
★現在発売中 https://www.switch-store.net/SHOP/SW3412.html


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