池澤夏樹 『旅をした人』

「悲しみから理解と肯定への道をたどったかを記す」物語

星野道夫がカムチャツカ半島でヒグマに襲われたという悲報が届いたのは、池澤夏樹が星野と仕事を始めようとした矢先だった。星野はアラスカを撮り続けた自然写真家。池澤はみずみずしい好奇心で世界の森羅万象を見つめる作家である。池澤がアラスカに星野を訪ねると、2人はすぐに意気投合した。会った時間こそ短くても心を通じ合えたのは、見ているもの、聞いているもの、感じているものが重なったからだろう。星野が生きていたら、池澤はアラスカで相当に幸福な時間を過ごすはずだった。それだけに悪夢のような事故死は無念だったに違いない。
本書は、星野道夫について池澤夏樹が書いた文章、講演、対談などを集めたものだ。生前のものもあるが、ほとんどは彼の死以後に記されている。それは「動物だけでなくて背後の自然がぜんぶ写っている。時間をかければ見る人の側の成長に合わせて伸びていってくれる写真、時間をかけて何度も見ることで、ようやくいちばん大事なものが伝わってくる」写真と文章を解釈するとともに、ひとりの作家が友人の死をいかに受け止め、「悲しみから理解と肯定への道をたどったかを記す」物語でもある。
星野には写真集も著書もある。解釈はいらないというかもしれない。しかし、彼は何よりも古代からの神話が受け継がれるアラスカに生きた人だった。作品の深みはそこから生まれている。池澤の言葉は貴重である。星野道夫の真価を知るために。(齋藤聡海)


2000年2月1日発行

池澤夏樹 『旅をした人』

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2,640円 (うち税 240円)

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池澤夏樹が紡いだ星野道夫に関する全記録
小さな集落の中で狩の名人としてみんなの尊敬を集めた強い男が、たまたま特別凶悪なクマに出会って、長い壮烈な戦いのあげく死んだ。
男の名は口伝えに受け継がれ、やがて一つの伝説になるだろう――。
心の底からアラスカに魅せられ、自然と野生動物、そしてそこに住む人々の写真と文章を通じて生命が持つ漠然とした不思議を教えてくれた星野道夫。

彼が他界して3年の後、 彼の仕事、彼の生きかた、そして彼の死について考えたこと、話したこと、書いたこと――
男の名は口伝えに受け継がれ、やがて一つの伝説になるだろう―池沢夏樹が紡いだ星野道夫に関する全記録。

1996年にカムチャッカ半島でヒグマに襲われて亡くなった写真家、星野道夫。彼についてこれまで綴った文章と、講演や対談という形で話したことの記録。

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