野坂昭如こそ百の姓の持つ男だ。多岐に渡る活動は枚挙にいとまがない。
映画化された『火垂るの墓』、『骨餓身峠死人葛』は戦争で失った人間の尊厳を教えてくれる。歌手としては「黒の舟唄」、「マリリン・モンロー・ノー・リターン」。作詞家としては「おもちゃのチャチャチャ」をヒットさせた。新しくは『戦争童話集』のシリーズ刊行。他には落語家、政治家、百姓。その全部が広く、深く、軽く。まさに今をもっとも映し出す世界観だった。
作品群はいずれも地の果ての風俗だ。愛おしく人はそれを無頼とも反抗とも自由とも呼ぶ。神様の作った最高傑作のひとつがまぎれもなく野坂昭如なのだ。人はどのように生きて、どのように死んでいくのか。
Coyote再刊第一号は野坂昭如の軌跡を追う。
未来へ贈る物語としていわば「野坂昭如の遺言」なのだ。
立会人は黒田征太郎しかいない。
2012年9月15日発行