『バケモノの子』完成披露会見レポート

2015/06/20


2015年6月15日@東京国際フォーラム
『バケモノの子』完成披露会見
細田守監督コメント



『SWITCH』6月20日発売号で特集した、細田守監督の新作アニメーション映画『バケモノの子』(7月11日公開)。
その完成披露会見が、6月15日、東京国際フォーラムにて行われた。細田守監督をはじめ、声を担当した豪華な俳優陣が登壇。作品への思いを語った。
ここではその中から、細田守監督のコメントを紹介。


「みなさん、本日はようこそお越しいただきました。監督の細田でございます。『バケモノの子』、ようやく完成いたしました。スタッフ、キャストともに、ほんとうに考え得る限りのすごいメンツが揃って、この夏の映画を作れることの幸せを改めて噛み締めております。今日はどうぞよろしくお願いします」


――監督の作品は、2006年の『時をかける少女』から、『サマーウォーズ』、『おおかみこどもの雨と雪』、そして『バケモノの子』と、すべて3年おきの夏休みに公開されています。そして、必ずどの作品にも「青空に入道雲」が描かれています。監督が“夏休み”にこだわる理由は何なんでしょうか?


「入道雲というのは、成長していくんですよね。小さい状態からムクムクと立派になって、成長していく。映画の方も、主人公が、ささやかな一歩かもしれないけれども、何かちょっと成長するとか、前に進むとか、そういうものを描いている。そういうことを、入道雲が大きくなっていくさまに象徴的に託している、ということが一つあります。

あと、夏休みにアニメ映画を観るということは、子どもにとってすごく重要なことじゃないかと思うわけです。子ども時代の思い出の一つとして。自分自身もそうなんですけど、子ども時代に観た作品たちが、単に面白かったというだけではなくて、子ども時代を彩るものであった。いま、巡り巡って自分が映画を作ることになった時に、子どもたちの夏の思い出を、大きくなってからも思い出すような夏の思い出を、ちゃんと映画の中で彩ってあげたいなという、そういう気持ちで作っているところがあります。

夏休みに子どもが何か冒険をして一皮むける、成長するというは、絶対になくてはならないものだ、というのかな。そういうものを体現した映画は絶対になくてはならなくて、できれば子どももそういうものを観るべきで、と思うんです。自分自身がそういう夏休みのアニメーションの名作から得てきたものがあるので、それは巡り巡って“お返ししなきゃ”という気持ちがすごくあります」



――今回、渋谷を舞台に描かれていますが、なぜ渋谷だったのでしょうか?


「一番の理由は、画になる街だということですね。渋谷はすり鉢状の街で、谷になっていて、その谷にあらゆる丘から道がつながっている。映画の画作りでは、坂道がすごく重要だったりする。『時をかける少女』なんかでもそういうところがありました。あの時は、新宿の中井という場所をモデルにしたんですけれども。魅力的な坂道をロケーションすることができれば、映画の画作りはすごく良くなる、そういう見込みで渋谷にした部分があります。

それと、渋谷はいろんな人が集まって、そこで何かが起こっていて、いろんなものを生み出すバイタリティというか、パワーみたいなものがある。この10年20年はもちろん、90年代ぐらいからすさまじいパワーを発している街だと思うんです。そういう、人間たちがバイタリティを発揮して住んでいる、そこで生きているという部分が、バケモノたちが表裏一体に住む世界であるということとリンクするんじゃないかと思いました。そういうところから渋谷を改めて捉え直して、映画の世界として描いてみようと思ったわけです」



――なぜいまこの時代に「師匠と弟子」を描いた作品を作ろうと思ったのでしょうか?


「これは私事なんですけれども、前作の『おおかみこどもの雨と雪』ができてから、我が家に子どもができまして。男の子なんですけれども。その子が生まれた時に、子どもというのは現代において、誰が育てていくんだろう、どうやって大きくなっていくんだろうと、親ながら考えてみたわけです。そうすると、『おおかみこどもの雨と雪』は、要するに、子どもは母親が大きくしていくんだ、という映画だった。

それに対して、父親は子どもに対して何ができるんだろう、そう思った時に、ほんとうの父親だけじゃなくて、いろんなかたちをとった父親たちが世の中にたくさんいて、そういうたくさんの父親たちが一人の子どもを育てていくんじゃないか、と思ったんです。先生のような年上の人だけじゃなくて、同年代の同級生だって、ある人にとっては師匠たり得る。だから、今回、広瀬(すず)さんが演じる“楓”という登場人物がいるんですけれども、楓は(九太にとって同年代の)女の子ですけれども、映画の役割的には師匠の一人なんです。

例えば、中学に上がると、同年代に鉄道にめちゃくちゃ詳しい奴とか、洋楽にすごく詳しい奴とかがいたりする。そういう同い年なのにものすごく先を行っている人がいて、そういう人の影響も僕らは小さい時からいっぱい受けているんじゃないか。そうやっていろんな人たちが寄り集まって、ようやく一人の人間が大きくなるんだ、という、そういうことを映画にしてみようと思ったわけです」


――監督にとって、フリーになってちょうど10年目の年だと思います。今回これだけスケールの大きな『バケモノの子』を作られて、新たなステージに立たれたという時に、これからの映画作りにかけるお気持ちを教えていただけますでしょうか。


「10年ということで一つ思うのは、さきほども言いましたけれども、『バケモノの子』はものすごく贅沢なスタッフで作っているんですね。スタッフルームで、原画のアニメーターさんたちのコーナーがあるんですけど、『こんなにすごい人たちが一つの場所に結集するのか』と思うぐらい、すごく贅沢な布陣で映画を作ることができた。作画監督の山下(高明)さんとも、我々はすごく恵まれているよね、幸運だよね、恵まれすぎじゃないかと話していたんですけれども。

キャストの皆さんに関しても、ものすごい実力と才能を持った方々と一緒に映画を作ることができた。ずっといろんな映画を観て憧れていた皆さんですよ。これは、ただ映画を作ろうとしてもこうはならない気がしていて、一種の運がないとここまでのメンツで映画を作れるという幸運はありえないんじゃないかと思います。そういう方々と映画を作れて幸せです。

映画のスケールが大きくなると、映画を作るのと同じくらいに、観てもらうための努力をしなければいけない。そういう時に、いろんなチーム、いろんな人たちの協力があるんですが、それは『時をかける少女』が人知れず新宿の片隅で上映していた時からのつながりがすごく多いんです。あの頃からお付き合いさせてもらっている人たちとのつながりが、今につながっていると思うので、すごくありがたいな、幸運だなと思います」

(SWITCH 編集部)



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Posted on 2015/6/18