福山雅治 俳優の流儀:編集後記「負けたことのない奴」

 この仕事を通してこれまで多くの俳優に話を聞いてきた。取材の場でこちらの質問に対する反応は人それぞれで、考えが上手くまとまらず、もどかしそうに言葉を探しながら話す人もいれば、あまり自分の思いを語りたがらず、ごくシンプルな「回答」で話を終わらせようとするような人もいる。

 では福山雅治はどうか。これまでにも何度か彼に話を聞いてきたが、取材中に長い沈黙が訪れたことはただの一度もない。どんな質問に対しても、長年のラジオパーソナリティーの経験で培われたであろう反射神経とサービス精神、そして頭の回転の速さですぐさま答えを返し、そこからさらに話を膨らませていく。今回、是枝裕和監督との対談で、是枝監督は役者としての福山を「キャッチャータイプ」だと評していたが、それは役者としてだけでなく、彼自身の持った資質なのだと思う。それも、どんな悪球も見事にキャッチして華麗に捌く名捕手だと。

 その一方で、ラジオにせよインタビューにせよ、能弁に自らの思いや考えを語れば語るほど、受け手が抱く「福山雅治」というパーソナリティーのイメージは強固なものとなっていく。福山自身今回の取材で、良くも悪くも自分たちが感じている以上に「福山雅治」という名前で作品への先入観を持たれてしまうことへの懸念を控えめに話していた。近年福山が演じた二つの大きな役、『ガリレオ』の湯川教授と『龍馬伝』の坂本龍馬は、そうしたこちら側の先入観を上回る強い個性を持ったものであり、だからこそ見事にマッチしたということもあるだろう。作り手にとってそれは「俳優・福山雅治」を作品に落とし込むためのひとつの定石といえるのかもしれない。しかし今回、是枝監督はそうではない新たな手で福山雅治という俳優の魅力を引き出してみせた。

 劇中、子どもの問題を金で解決しようとする野々宮(福山)に対し、リリー・フランキー演じる斎木は「負けたことのない奴っていうのは、人の気持ちがわからないんだな」という痛烈な言葉を浴びせるが、その「負けたことのない奴」というワードは、どこか「福山雅治」という名前に重なる部分がないだろうか。その後の野々宮は手痛い逆襲を受け、その過程の中で彼は「父性」を獲得していくが、福山自身もまた、これまで体験したことのない是枝監督の現場で当初戸惑いや不安を覚えながら、彼にとっての新たな「役者性」を見つけていった――取材後あらためて本作を観返して、そんなことを思った。

Photography:Arai Shunya Text:Sugawara Go

SWITCH Vol.31 No.10 特集 福山雅治 俳優の流儀
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Posted on 2013/09/17