ヒーローを待っているのは誰か?

 江の島での対談取材中、松本大洋と湯浅政明は『ピンポン』という作品の根幹をなしている「才能」について話していた。
「風間(ドラゴン)が言うように、才能って欲しい人にはなかなかなかったりするものだなって。西見君(西見祥示郎。『鉄コン筋クリート』の映画版でキャラクターデザイン・総作画監督などを務めた)は僕と同郷ですけど、高校時代から絵がすごく上手かった。僕も彼のようになれないだろうかと思っていたけど、才能があるやつは才能にこだわらないんだなと。自分にあの才能があったら、あれもこれもできるのになって思ってましたね」(湯浅) 「僕の場合は土田世紀っていう人がいて、この間亡くなっちゃったんですけどね。僕は土田さんを目指したし、彼と自分との差みたいなものはずっと感じていて。そういうのは、この作品の中に入っていると思うんですよね」(松本)
 それを聞いて、漫画とアニメーション、それぞれの分野で天才と目されている2人ですら、そんなふうに思うのかと、意外な気がした。
 今回の特集では、登場した人々に「ヒーローの条件」について訊いた。それぞれ個性的な回答が返ってきたのだが、特集がまとまってくるにつれ、「これは、その人自身の価値観そのものなのかもしれない」と思うようになった。
 当り前といえば当り前のことだが、ヒーローとは人間が思い描く理想像に他ならない。憧れても届かないからこそ、ヒーローという存在を架空に作り出す。もし「ヒーローなんて存在しない」と嘯く人がいるとしたら、その人は紛れもなくヒーローであるに違いない。

「SWITCH」Vol.32 No.5(HEROES ヒーローを待ちながら)


Posted on 2014/04/20