for Readers 旅を続ける

Coyote No.50 編集後記

 新しい冒険譚を求め、「Coyote」を創刊したのは2004年、最初の特集は森山大道でした。路上を徘徊するような写真、彼の取材は常に移動でした。以来僕たちは星野道夫、沢木耕太郎、池澤夏樹、ダライ・ラマ、ジェリー・ロペス、そして谷川俊太郎といった人々と、さまざまな国々を越えて、見知らぬ風景を見て、物語を繋いできました。アラスカ、ニュージーランド、チベットのような辺境もあれば、ポートランドやサンフランシスコのような都市もあり、ハワイの峡谷へ足を延ばしたこともありました。
 イヴォン・シュイナードに「なぜ山に登るのか」と訊いたことがあります。彼は「なぜ、ではない、いかに山に登るのか、それが大事なんだ」と答え、山登りの真の在り方はたった一人で何ができるかを考えることだと諭すように教えてくれました。
「ゆっくりと時間を感じること。結果ではなく過ごしたかけがえのない時間こそが大切なこと」
 同じ言葉を星野道夫から聞いたことがあります。イヴォンにとっても星野にとっても、生きるとは自然を理解することに他ならないのです。
 ジェリー・ロペスはサーフィンの上達する方法はたった一つだと言います。
「いい波が来たら乗ること、何回も乗ること」
 全てプロセスが大切だということを僕たちは理解しようと、雑誌を作り続けてきました。山で暮らす人を追いかけては野菜を摘み、荒野で草を刈って自然を学んでいきました。
 知りたい思いはたった一つしかないのです。
 賢者の旅を通して、成長の軌跡を地図に刻むこと。しかし途中長い休みを僕たちは余儀なくされました。なぜ間違ったのか考える時間です。再び旅を開始した理由は、世界は知らないものばかり、わからないことばかり、まだまだ不思議に満ちあふれているということ、その表現として雑誌が大好きなのです。
 50号を迎えた今号の特集はジョン・カサヴェテスです。人生そのものが映画のようなその軌跡。たった一度の人生をよりよく生きたい、そのために彼の映画は地の果てを生きる男と女が主人公となる。口をついた言葉は時に愛しさとは裏腹で切ないけれど、夢見た世界を願う美しさに溢れています。

Coyote No.50 カサヴェテスへの旅


Posted on 2013/12/09