本屋のかお――ブックスキューブリック箱崎店(福岡・福岡)

本棚と書店員。2つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。福岡のブックスキューブリック箱崎店の店長、大井さんが掲げるキーワードは「居場所」。家でもなく会社でもない、もう一つの場として、街や人との繋がりを生み出す小さな本屋を訪ねた


2001年、福岡市けやき通りに一軒の街の本屋がオープンした。映画『2001年宇宙の旅』の監督の名前にあやかり、ブックスキューブリックと名付けられた。出版不況が既に叫ばれ始めていた当時、書店業未経験者であった店長・大井さんが新刊書店を立ち上げることは、宇宙船ディスカバリー号よろしく大冒険だったに違いない。しかし周囲の心配をよそに、この小さな本屋は順調に軌道に乗る。2008年には、博多駅から電車で約5分の箱崎駅近くにイベントもできるカフェスペースを備えた姉妹店をオープン。ここではなんと2年前から店内でパン屋まで始めたという。本屋の枠を越え挑戦し続ける大井さんに、本屋と街との繋がりについて話を訊いた。

――ここ箱崎店は今年で開店10周年ですね。

「箱崎店を始めた一番の理由はイベントをやりたかったからです。1店舗目は比較的狭いから、本を売るので精一杯。そんな時、1、2階を使えるこの物件がちょうどよく見つかった。箱崎は歴史もありながら若い人も多く、市内中心部とは違った独特で面白い土地。本屋と同時に昼間はカフェとギャラリー、夜は作家やアーティストを招いてイベントを開催しようという計画で始めました。パン屋は、以前隣にあった料理教室がベーグルを販売していたのですが、教室がなくなってしまったので、自分でやることにしました」

――カフェ、パン屋、イベント。書店業に加えて様々なことに挑戦する理由は?

「とにかく本屋が好きで、続けていきたいから。しっかり利益を出すために、飲食は経営の助けになります。単純に、私がコーヒー好きだからというのもある(笑)。イベントは、この店に来る人にとってここが“居場所”になればいいなと思うからです」

――居場所というのは?

「インターネットやSNSなど、いろんな人と繋がるツールができて便利になったけど、そろそろみんなが繋がりの質の大切さに気付き始めていると思います。誰彼なく繋がるのではなくて、考え方や志が近い人との濃い繋がりが欲しいという意識が生まれている。そうすると、自分が何を大事にしてどう感じているか、きちんと表明していかなければいけない。その時に、読書会や好きな作家のトークショーのように、本をきっかけとしたテーマがあると語りやすいと思うんです。そうやって人と繋がれる場所が家や職場の他にもあるといい」

――たしかに、そんな本屋さんが自分の住む街にもあったら嬉しいです。

「地元の出版社などと協力して、福岡の街ぐるみの本のイベント『ブックオカ』も主催しています。こうした地域との繋がりや街づくりに惹かれて働いてくれているスタッフもいる。地方でこんな本屋がもっと増えてきたら、その街に行きたいという人も出てくるんじゃないかな」


<プロフィール>
大井実(おおいみのる)

ファッション業界、イタリア生活、イベント企画などの経験を経て、39歳で福岡で書店を開業。街のイベント運営などにも携わる。創業の理念や感覚を活かしながらスタッフが楽しく自主的に働く仕組みづくりが経営者としての今の課題


【今月の棚】



取次配本に頼らず全て自ら選書した本を並べることにこだわっています。コンパクトな店内にひと通りのジャンルを揃える「小さな総合書店」。自分のような本好きの社会人をお客さんとして想定した棚作りをしています。生活やまちづくりの本も多いです




【語りたい3冊】



『ローカルブックストアである――福岡ブックスキューブリック』編集=大井実(晶文社)
この本屋の「これまで」と「これから」について書いた自著

『ツナパハ・ヌワラエリヤ スリランカカリーをつくろう』著=前田庸(書肆侃侃房)
けやき通り店の近所にあるカレー屋さんのレシピ本。スパイシーでダシが効いている奥深い味に中毒状態

『中川ワニ ジャズブック』著=中川ワニ(あうん堂本舗)
珈琲焙煎人の著者によるジャズCDエッセイ本。表紙を飾るタダジュンさんの絵が大好きで、四月に版画展も開催しました


<店舗情報>
ブックスキューブリック箱崎店
福岡県福岡市東区箱崎1-5-14
営業時間 10:30〜20:00
*ギャラリーにて7/10-8/5まで松本大洋『「いる」じゃん』原画展開催中

(本稿は6月20日発売『SWITCH Vol.36 No.7』に掲載されたものです)


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