SWITCH INTERVIEW ――大竹聡「たんたんと今日もどこかの街で」~後編~ 2page

写真・浅田政志


「それでその後は、新宿の出版社のアルバイトに行くんです。でも、出版の世界の先輩は、インテリで、いろいろ飲みに連れてってもらったんだけど、『お前、そんなことも知らねえのか』と言われたりして、なんだかスカしてるんですよ、それがちょっと気に食わなかったりして」

「その後も、そこでアルバイトを?」

「それから求人広告のセールスのアルバイト行ったりしてました。それで、その会社が作った情報誌で、編集の勉強させてもらったり、おつかいのようなことをやってました。それが結構楽しかった」

「バブルの頃ですか?」

「バブルの前です。でも世の中の学生は、世間を舐めまくってた感じですね」

「で、いよいよ大学卒業で、就職ですね」

「そこで出版社をいくつも受けるんですけど、受からなくて、そしたら新聞広告で、思潮社の募集を見つけたんです。経験者募集ということだったんだけど、アルバイトで昼間に出版や広告で働いていたので、これを経験者としてみなしてほしいと、偉そうなこと書いて、長大な作文を社長宛に書いたら、合格しちゃったんです」

「思潮社は『現代詩手帖』?」

「そうです。でも詩と批評ですから、こりゃわかんねえぞ、と。読んでもわからなくて、7カ月で辞めました」

「あれま」

「それから、大学生の頃、お世話になってた、求人広告の会社が、だんだん大きくなっていて、自分は営業で走りまわるくらいがいいんじゃないかと思って、で、求人のセールスマンにしてもらった」

遊びで走りまわっていた大竹さん、今度は仕事で走りまわるようになります。

「お酒は?」

「まあ、上司や同僚と飲むくらいだったかな」

「そこらへんからバブル期ですか?」

「そうです。でも世間はバブルだったけど、自分は忙しかっただけで、金を儲けた記憶はないです」

「走りまわっていただけで」

「その会社に5年くらいたんだけど、小さな会社ですからね、課長とかいう役職を貰っちゃって、そしたら人を採用したり、『目標持ってください』とか言われちゃってね、上は2人で、部下9人。でも自分は、人に使われるのも、人を使うのも嫌になってしまって、こんなことやっててもちっとも面白くないと思ってね、辞めちゃうんです。まったく、ひどいですよ、いまの若者に合わせる顔がないです」

「それで会社辞めてからは」

「新宿の出版社でアルバイトしてたときの先輩が、フリーランスで、旅行ガイドの下請けなどをやってたんですよ。その先輩に酒場でバッタリ会って、会社を辞める話をしたら、仕事をまわしてくれて、そこから編集のイロハを1年弱教えてもらいました、でも自分は、フリーの編集者じゃ食えないと思った。企画も人脈も、それに素養もないんですから。そこで、ライターになるかしかないなと思ったんです。それまで飛び込みの営業をやってきたから、知らない人のところに、ピンポンって行って、話を訊くのとかも苦にならなかったんですね」

「ライターはどんな仕事をしてたんですか?」

「旅行記事とか男性誌の読み物記事、パソコン雑誌も書きました」

「なんでもですね」

「でも芸能と政治は書いたことないですけど、それ以外は」

「そこから、自分で雑誌を作るんですか?『酒とつまみ』?」

「いや、そこから、まだ10年くらいかかるんです」

ライターをやり続けていた大竹さん。しかしフリーランスの集まっていた事務所だからこその利点がありました。

「事務所は、フリーランスの人が集まっていたから、メンバーが変わったりしてたんだけど、ある時期、そのときのメンツで何かやろうとなったんです。それで考えてみたら、デザイナーもいるし、カメラマンもいるし、ライターもいるから、これならミニコミを作れるぞとなったんです。それで最初に、中島らもさんがインタビューを受けてくれて」

「『酒とつまみ』だ!」

「そうです。創刊号が届いたときは、嬉しくて、今度は売りに行こうってっなって」

「営業ですね」

「飲み屋とかまわって、読んでくれた人に、『面白い』と言われたら、また嬉しくなってね」

「そこで大竹さんも、自分の好きなことを書くように」

「そうなんだけど、今までは、注文を受けて書いてたでしょ、でも、何もないところから書くということに、最初は緊張したな。それで『面白い』と言われると、これまた嬉しくて」

その後、好評の「酒とつまみ」は号を重ねていきます。

「でも、どんどん貧乏になるんですよ」

このようにおっしゃる大竹さんですが「酒とつまみ」を読んで、大竹聡さんというユニークな人間がいると知った人は多いはずです。

最後に書くことの魅力を語ってくれました。


「単行本のための書き下ろしもあるけど、雑誌に発表できるというのは、他の記事に自分の記事が挟み込まれるという醍醐味があるんです。そこで他の人と比べられるのが楽しい。それと、雑誌は寝転がって、酒を飲んだりしながら読むでしょ、そこで読んだ人が、頭に一箇所でも入るところがあればいいんです。後で、アレなんだっけ?とか、面白かったけど思い出せないな、というくらいでいい。そんな記事を書ければいいなと思ってます」

紆余曲折ありながら、純粋に書くという行為を楽しみ、そして飲むという行為を楽しんでいる大竹さん。「エロ本、ギター、野球のグローブ」から「雑誌、酒、ペン」になったのかもしれません。

ちなみに『多摩川飲み下り』の後に出版された、『こだま酒場紀行』も最高です。この本は、新幹線こだまの停車駅を一つ一つ降りて、酒場に繰り出すといったものです。

今日もどこかの街で、酒を飲んでいる大竹さんを想像すると、こちらも酒を飲みたくなるのでした。



大竹聡 1963年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーライターに。2002年仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊。主な著書に『中央線で行く東京横断ホッピーマラソン』『酒呑まれ』『下町酒場ぶらりぶらり』『ぜんぜん酔ってません』『レモンサワー』『多摩川飲み下り』『こだま酒場紀行』がある

戌井昭人 1971年東京生まれ 作家、パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」の旗揚げに参加、脚本を担当。『鮒のためいき』で小説家デビュー、2013年『すっぽん心中』で第四十回川端康成文学賞、16年『のろい男 俳優・亀岡拓次』で第三十八回野間文芸新人賞を受賞。最新刊は『ゼンマイ』


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