SWITCH INTERVIEW ――大谷幸生「花で笑顔を飾る」 ~前編~ 2page

写真・浅田政志

「高校時代は、どんな感じですか?」

「近所の新設二年目の高校に入学して、自転車で通ってました」

「部活は?」

「新設校だったので、ほとんど部活がなくて、当然ブラスバンドもありませんでした」

「困りましたね」

「どうすんの、って感じで、ぷらぷらしてたんですが、当時はバンドブームで、先輩たちがやっている同好会があったので、そこに行ったんですけど、サックスを持って行っても何の役にも立たなくて。そんなこんなで、楽器を買うために、ガソリンスタンドでアルバイトを始めます」

「なに石油ですか?」

「コスモ石油です」

「自分も、高校生の頃に、コスモ石油でアルバイトしてました」

「僕は高校時代、学校よりガソリンスタンドにいた方が多いんじゃないかってくらいアルバイトをしてました。そのガソリンスタンドは家と学校の途中にあったので、学校に行く途中、店長から『今日は人が少ないからやっていかない?』って呼び止められて、学校休んでアルバイトしてました」

良い環境なのか悪い環境なのか、でもお金が溜まりそうです。

「高校時代は、バイトを一生懸命やって、バンドの練習をしてました」

「バンドの練習するスタジオは、どこに?」

「横須賀です」

「ライブをやったり?」

「ライブは横浜でやってました。今はドンキホーテになってしまったけど」

「『バンドホテル』だ」

「そうです」

「楽器はなにを担当?」

「ベースです」

「どんな感じの音楽だったんですか」

「最初はコピーバンドだったけど、18歳くらいから、女の子が歌うバンドを始めて、オーディションに応募したりしていました。髪の毛を立ててもしょうがないから、真面目にやろうといって。髪の毛を立てても審査員の点数は上がらない、と」

「結果は?」

「端っこの賞をもらったりもしました。でも僕は20歳でやめたんです。それで残ったメンバーは、デビューしたんですよ」

「凄い」

「はい、僕も凄いなって思ったけど、1年で契約が切れて、解散しちゃいました」

「大谷さんはその頃なにをやっていたんですか?」

「ガソリンスタンドの正社員になっていたんです」

「えっ、アルバイトから」

「はい。ミュージシャンになりたかったのはあったけど、まあ、真面目にやっていこうと。それでガソリンスタンドに就職です」

「じゃあ、整備士の免許も取得して?」

「はい。23歳の頃、新しいガソリンスタンドができるので、そこの店長になるってことになったんです。そのためには、整備士の資格を持ってなくてはいけないということで、研修に通わせてもらって」

「それで店長に?」

「なりました。でもオープンして3カ月で辞めてしまったんです。だから、それまでは羽振りが良かったんですけど、極貧の生活になっていきます。公共料金を払ってなくて、電気も止まって」

「辞めるきっかけはなんだったんですか?」

「ガソリンスタンドで働いてた頃、満タンにするとハンコを押すというのがあって」

「ポイントカードみたいなものだ」

「はい。それで、ハンコがたまると、ティッシュとか食パンを配ってたんです。そうしたら、ちょっと乗っただけで、ガソリンを満タンに入れにくる人がいて、それも夫婦で交互で来るんです。でも、そんな風にハンコをもらうために来る人とかは、なんか嫌だなと思って、ティッシュやパンじゃなくて、花をプレゼントしようと思ったんです」

「なるほど」

「で、いつも花屋さんにオーダーしにいってたんですけど、その花屋では、おじさんがタバコをくわえながら、ほいほいほいと花束を作って渡すと、お客さんが『ありがとうございます』と喜んでいるんです。それで『はい四千円』と。お金をもらって、『ありがとう』と言われて、自分が好きなように花束を作っていて、これは凄いと思ったんです。さらに、その花束を誰かにプレゼントしたら、貰った人が喜んで、さらに、それを持って帰ると家の人が喜ぶ、その喜ぶのを見ている方も嬉しい。とにかく、これは凄いぞと思って、ガソリンなんて入れている場合ではないと」

「でも店長ですよね、簡単には辞められない」

「そうなんです。だから最初は、誰か友達に花屋をやらせて、そこを手伝おうかと思ったんです。でも僕らの世代で、横須賀で、その当時だと、みんなパチンコやったりしていて、誰も花屋なんてやってくれない。それで、『すいません、花屋やりたいから辞めさせてください』と」

「すんなり辞められたの?」

「いえ『お前に幾らかかってると思ってるんだ』と言われました」

「研修とか行ってるし、資格も取らせて貰ってるし」

「そうなんです。だから、退職金もいらないのでで辞めますと」

「幾つのときですか」

「23歳くらいです」

「それで花屋に?」

「いえ、辞めた次の日も『それで花屋ってどうやってなるんだろう』といった状態でした。で、みるみるお金が無くなっていきまして、このままじゃヤバい、家賃も払えないと。そこで、近所のお弁当屋で働くようになります」

「花屋の夢を持ったまま、お弁当屋さんで」

「はい、とにかくお金が無いので、いまどうにかしなくてはと。それでお弁当屋の仕事を夕方までやって、その後は夜中の12時までホテルの掃除のバイトをしていました」

まだ花の仕事をしていなかったけれど、当時の大谷さんは、花についてどのようなことを考えていたのでしょうか?

「花は粘土だと思ってました。いろいろあるものを組み合わせれば大丈夫だと思っていたんです。いま考えるとちゃんちゃらおかしいんですけどね」

「お弁当屋さんはどのくらい働いていたんですか?」

「店長に、『大谷くん、新しいお店を出そうと思うんだけど、店長どうかね』と言われて」

「スタンドの頃のようですね」

「それで、これはまずいと思って」

「でも大谷さんは、いい働き手だったんですね」

「汚いメニューを書き換えたり、いろいろやってたんですよ。それで、人が喜ぶのが嬉しかったので」

人が喜ぶ、そして笑顔になる。どんな仕事をしていても、これが大谷さんの原点かもしれません。

後編へ続く

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