柴田元幸「猿のあいさつ」MONKEY Vol.2

『モンキー』第二号です。去年の十月に出した第一号は、おかげさまで好評で、二度も増刷することができました。ご購入いただいた読者の皆さん、応援してくださった書店やメディアの皆さんにあつくお礼申し上げます。ありがとうございました!
 –―と、自分で使ってしまいましたが、最近どうも、「!」をつけないと本気で感謝していないみたいに思えてしまう、いわば「!」インフレが起きていて、よくないですね。
 なので、
 ――ありがとうございました。(「!」ないけど本気)
 さて、第二号は、日・米・英発の新しい小説の特集です。題して「猿の一ダース」。
 「パン屋の一ダース」(a baker’s dozen)という有名なフレーズがあります。十三世紀のイギリスで、パン屋がパンの重さをごまかして売っているという噂が立ったため、罰せられるのを避けようとしたパン屋が、一ダースのパンを買ってくれたお客に、一個おまけして一ダース=十三個としたのが起源です。名短篇集『ナボコフの一ダース』も、これにならって十三篇入っています。
 これとは逆に、フランスでは、猿はずる賢いので、猿にバナナを数えさせると十二個あると一個をちょろまかしてしまうので、十一個のことを「猿の一ダース」(la douzaine du singe)といいます。
 ――噓です。すいません。
 なんにせよ、今回の新しい小説群、(詩やショートショートもあるので作品数はそれより多いけれど)作者は十一人しかいないのです。いないのですが、猿は見栄っ張りなので、「猿の一ダース」という名前をどうしても使いたかったのです。ただその、英語で書いている七人の作家の作品は、すべて猿が訳しているので、それに免じて勘弁してやってください。
 これは決して、「現代小説の最先端」紹介をめざした特集ではありません。もちろん、そういうレッテルにふさわしい人もたくさん入っていますけど、それとともに、もう何十年も前からコツコツ書いている作家も入れています。例によって例のごとく、いま僕が(連載してもらっている川上さん・古川さん・岸本さんに加えて)いちばん読みたい、訳したいと思う作家を並べた、ということに尽きます。気に入っていただけますように。きぃ。

<プロフィール>
柴田元幸(しばたもとゆき)
1954年、東京に生まれる。東京大学教授、翻訳家。著書に『アメリカン・ナルシス』『翻訳教室』『ケンブリッジ・サーカス』など。最近の訳書にポール・オースター『写字室の旅』、ブライアン・エヴンソン『遁走状態』がある。


「MONKEY」vol.2(特集*猿の一ダース)
「MONKEY」vol.1(特集*青春のポール・オースター)

Posted on 2014/02/14
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