本屋のかお――住吉書房元住吉本店(神奈川・元住吉)

本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。連載21回目は、神奈川・元住吉のユニークな商店街の途上に位置する、総売り場面積約300坪の住吉書房元住吉本店。宮下店長が語るのは懐かしくも新しい、大きな書店と地域とのあり方


近年、東急東横線の武蔵小杉駅では再開発が進み、タワーマンションや大型商業施設が次々に建設されている。その変貌を横目に、独自の街並みを展開し続けているのが一駅隣の元住吉駅だ。西口には童話『ブレーメンの音楽隊』にちなむ約550メートルの「ブレーメン通り商店街」が続き、日中は老若男女さまざまな人で賑わう。毎年十月にはドイツ・ブレーメン州から取り入れた祭典「フライマルクト」が催され、10万人が訪れるなど活気に溢れている。童話に登場する動物たちがあしらわれたアーチを抜けて徒歩1分。昨年3月にリニューアルしたばかりの「住吉書房元住吉本店」が見えてくる。ビル3フロアに入居する店舗ながら、その趣から感じるのは昔ながらの街の本屋の温かみ。宮下店長に話を訊いた。


−−首都圏に15の支店をもつ住吉書房ですが、当初は別の業態だったそうですね。

「創業時は『やぶそば』という蕎麦屋でした。書店業の始まりは1971年です。その後、何度かの改装を経て現在に至ります」


−−棚を作る上で意識されていることは?

「強いて言えば大きく宣伝されないジャンルのムック本などにも力を入れていますね。元住吉という土地柄もあって、このお店には趣味嗜好が異なる、さまざまな方がいらっしゃいます。そんなお客様のニーズに応えられるよう、ライフスタイルからスポーツ、占いなどの小さなジャンルまで、ポップや表紙を見せる展開で、新刊や売れ筋がわかりやすい棚づくりを心がけています」


−−日頃から実用的なジャンルにも力を入れている影響か、2017年に川崎フロンターレがJ1を制覇した際には特集誌を求めて、ファンが殺到したのだとか。

「川崎フロンターレは会社全体で応援しているんですよ。あと、元住吉本店は他の店舗に比べ、お客様と店員が頻繁にコミュニケーションを取るなど距離感が近く、温かみがあるんですよね。検索機がないからかもしれませんが(笑)。商店街自体もとても活気があるので、その空気も店の中に伝わってきているのかもしれません。街ぐるみのイベントも頻繁に行われていて、ハロウィンの際はうちのお店も商店街の方々とともに、仮装姿で来店する子どもたちにお菓子を配りました」


−−多様なお店が一丸となり、場を賑やかにする様子はブレーメンの物語のようです。

「本屋は“楽しめる場所”であるということが一番だと思います。世の中ではあまり知られていなくても、切り口が斬新であったり、装丁や手触りまでこだわったユニークな本が入荷すると、出版社の努力に感銘を受けるんですよね。そういったものを伝えることで、なにか新しい価値観と出会ってもらえると嬉しいです。“大きいけれども距離感は街の書店”。その意識を大切に、これからも地域の方々にとって身近なお店を目指したいですね」



<プロフィール>
宮下康彦(みやしたやすひこ)

1972年、藤沢市生まれ。1996年住吉書房入社。複数の支店での勤務を経験後、本店店長に就任。一時他店へ移動となるも2010年の本店リニューアルの際に再び本店店長へ。趣味は映画観賞とレトロな雰囲気が漂う老舗の喫茶店巡り


【今月の棚】



全体としてはどのジャンルも偏りが出ないような棚づくりを心がけています。ただ、個人的に力を入れているのが「コーヒーと映画の棚」です。テーマに沿った人気の高いムック本を中心に、新刊・既刊に関わらず内容が面白いものを揃えています




【語りたい3冊】



『POPEYE 特別編集 本と映画のはなし』(マガジンハウス)
著名人のマイフェイバリットな本と映画を紹介しているムック本で、読後はそれらの作品に触れたくなること間違いなし!

『ニッポンの編曲家』著=川瀬泰雄・吉田格・梶田昌史・田渕浩久(早川書房)
80年代歌謡曲の秀逸な編曲を手がけた編曲家や、スタジオミュージシャンの秘密に迫ったユニークな一冊 

『新装版 日本字フリースタイル・コンプリート』著=稲田茂(誠文堂新光社)
レトロ調の描き文字が満載。文字の表現内容もクスリときて、眺めてるだけで癒されます


<店舗情報>
住吉書房元住吉本店

神奈川県川崎市中原区木月1-22-7
営業時間 月〜土 10:00-23:00 日 10:00-22:30


(本稿は1月20日発売『SWITCH Vol.36 No.2』に掲載されたものです)


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