【特別公開!】アナログ盤の音に惹かれる理由  高橋幸宏

PHOTOGRAPHY: GOTO TAKEHIRO
TEXT: SUGAWARA GO



CDが売れなくなったと言われて久しい一方で、アナログレコード市場は好調を続けている。レコード盤をターンテーブルに載せ、針を落とす。そんな手間をかけてまで人はなぜアナログの音にこだわるのか。Technicsの新たな銘機SL-1200Gに耳を傾けつつ、高橋幸宏と考える


幸宏さんは文字通り「アナログで育った世代」ですね。

「そうですね。小学校の頃からレコードを買っていますからね。ひたすら洋楽ばかり買い漁っていました。ビートルズ、ビーチ・ボーイズといったメジャーなものからマイナーな映画のサントラ盤まで、手当たり次第。実家の自分の部屋に高級なオーディオシステムを揃えてもらうことができて、マッキントッシュの真空管アンプでかなり大きな音で聴いていました。今なら絶対に近所迷惑で問題になると思うけれど、当時はみんなおおらかだったのか、あまり気にせずに鳴らしていましたね。レコードは大きな音で聴くのが普通だと思っていたから」

当時のレコードの音で印象に残っていることはありますか。

「日本のレコードと海外のレコードはなぜこんなに音が違うんだろう、とよく思っていました。日本のレコードはボーカルはよく聴こえるけどドラムがやけに小さいな、とか。あと、イギリスとアメリカでも音の雰囲気がだいぶ違うなと」

その後主要な音楽メディアがレコードからCDへと切り替わりましたが、幸宏さんはアナログ盤を聴き続けていましたか。

「家では常に聴こうと思えば聴ける状態にはしていました。とはいえよほど時間に余裕がある時じゃないと、ゆっくりアナログを聴こうという気持ちにはならなくて。これがもし軽井沢みたいなところに引っ越していたら、ひたすらアナログばかり聴いていたと思いますね、テイ(・トウワ)くんみたいに。彼はもう本当のアナログマニアですから(笑)」

状況さえ許せばひたすらアナログを聴いていたい、と。その音の魅力というのは幸宏さんにとってどんなところなのでしょうか。

「まず、ボリュームを上げた時の気持ち良さですね。今日はテクニクスの一番上のシステム(※リファレンスクラス R1シリーズ)で聴かせてもらいましたが、本当に素晴らしかった。盤の状態によっては歪みも出てくるけれど、アナログ独特の歪みは聴いていても全然嫌じゃないんです。欲を言えば、時間があれば同じシステムでCDやハイレゾも聴いてみたかったけどね。ただアナログは本当に盤のコンディションやレコード会社によって特徴があって、『あのレコードは本当に音良かったよね』という一枚もたくさんある。何年に出たあのプレスはすごく良かったとか、やっぱりオリジナルが一番だよねとか。でもだんだんこの歳になって耳も高域が弱くなってきたりすると、そこまでこだわらなくてもいいかな、という気もしていて。良い音で聴けるのはもちろんいいことだけど、アナログのもうひとつの大きな魅力はやっぱりジャケットの大きさじゃないですか」

ジャケットを手に取って、眺めながら聴くのもアナログ再生の醍醐味のひとつですね。

「だから、それがCDになってしまった時はかなり抵抗感があったけれど、それでも手に取れるモノとしての価値はあるわけだから、この先もパッケージビジネスというのは無くならないと僕は思っていたんです。でも、いまや世界的に見たらCDがかろうじて売れているのは日本くらいですよね。僕が2012年にしばらくロンドンに行っていた時にはもうCDショップなんかほとんどなくなっていて、スーパーで安売りされていましたから。でもレコード屋は変わらずあったし、カセットを扱っている店もあった。リスナーの嗜好がより細分化され、明確になってきているんでしょうね」

アナログならではの“音”の魅力についてはいかがですか。

「アナログ盤の音の魅力というのは明確にあるんだけど、それはある程度ちゃんとした装置で、デカい音で聴かないとわからないものだと思います。僕はどちらかというとヘッドフォンよりもスピーカー派で、レコーディングでも最終的なミックスではヘッドフォンは使わないんです。その場の空気を通した音を聴いている。ロンドンならロンドンの、ロサンゼルスならロサンゼルスの空気を通した音だというのが重要ですから。そうした“空気感”をちゃんと表現できるのがアナログの音なんだと思います。あとは、好きな音楽はやっぱり部屋で流しておきたいんだよね。何か他のことをしながら聴きたい時もあるし、お酒を飲みながらじっくり聴きたい時もある。そうしたら『やっぱりスピーカーで聴こう』ってなりますよね」

テクニクスのターンテーブルSL-1200Gを中心としたシステムの音はどうでしたか。最終的には十枚近い盤を聴かれていました。

「どれも気持ちの良い音でしたね。それはアナログ盤の音というのもあるし、このオーディオシステムの音というのもあるでしょう。今日はアナログ盤を良い音で聴けるということだったので、昨夜自宅のレコード棚をチェックしていたんだけど、ちゃんと整理してないから『あ、これもあった』『これも聴きたいな』って次々引っ張り出してしまって。そのうち腕も痛くなってきて、『あれ、でも五枚って言われてたな』って(笑)。とても五枚じゃ収まらなくて」

こうしたクオリティの高いシステムを日常で使うということに対してはどう思われますか。

「ちゃんとそれに相応しい広いスペースがあれば、このくらいのシステムを置きたいですね。仕事場じゃなく、ちゃんとリスニングルーム用の設計で、ただ音楽を聴くだけの空間として持てるのならすごくいいと思います」

スタジオの音と、こうした音楽鑑賞用の音というのは、幸宏さんにとっては全く別物ですか。

「別物ですね。根本的に違います。実際に今日聴いたシステムにしてもやっぱりマニアックだと思うし、本当に音楽とオーディオが好きな人のための、ものすごくクオリティの高い音ですよね。ここまでとは行かないまでも、少しでも良い音で聴けたほうがいいですよね。今はiPhoneでもiPodでも、オーディオシステムに繋げて聴くことはできるんだから」


高橋幸宏 1952年東京都生まれ。サディスティック・ミカ・バンド、Yellow Magic Ochestraの一員として活動。近年ではSKETCH SHOW、pupa、METAFIVE等のユニットやソロ活動で作品を発表


アナログ盤で聴きたい5枚

『テクノデリック』Yellow Magic Orchestra
『METAHALF』METAFIVE
『GALAXY』War
『Another Time, Another Place』Bryan Ferry
『THE BAND』The Band
『テクノデリック』『METAHALF』の2枚を今日持ってきたのは、単にこの2組の音を最新のシステムで聴き比べてみたいという興味からですね(笑)。実際に聴いてみて思ったのは、重低音というか、直接耳に聴こえないような帯域の鳴りみたいなものは『テクノデリック』のほうが太かったかな。『METAHALF』はやっぱり今風の音だなという気がしました。それは使っているシンセの種類のせいもあるんだけど。低域も締まっていて高域もきちっと出ている、デジタルにもアナログにも対応できる音ですね。『GALAXY』はとにかく出だしのドラムが好きなので、そこを聴きたかった。日本人でもこのリズムに影響を受けている人はすごく多いですよ。ブライアン・フェリーは『アヴァロン』(ロキシー・ミュージック)が大ヒットして、そこから歌の癖も取れていったんだけど、むしろ僕はその癖が好きだったんです。だから『アヴァロン』以前のこのソロ作『Another Time,Another Place』をアナログの高いクオリティの音で聴いたらどうだろうと思っていたんだけど、やっぱりボーカルがすごく良かったですね。この人はこの感じで歌ってほしいよなとあらためて思いました。『THE BAND』はいわゆるミュージシャンズ・ミュージシャンですね。今度ちょっとカバーしてみようかなと思っているんだけど、普段CDで聴く音とは全然違いました。CDとアナログの違いもあるだろうし、今日のシステムの能力というのもあるんだろうけど、とにかく音が太くて、アメリカ西海岸の乾いた空気感もしっかり感じられました。


TECHNICS PRODUCT


SL-1200G
暫くの沈黙期間を経て、Technicsが2016年に発売した「SL-1200G」(330,000円 税別)。“復刻”ではなく“革新”として、安定した回転を実現するため新たに開発されたモーターや、わずかな振動やノイズの原因を除去するための精密なバランス調整が施されたターンテーブル等、随所に最新の技術が採用されている。そんな内部の革新の反面、ターンテーブルやトーンアーム、操作ボタンの配置はかつてのSL-1200シリーズを踏襲しており、SL-1200ユーザーは、当時の感覚のまま最先端のアナログサウンドを堪能できる
SC-C70 OTTAVA™ ƒ
CDやラジオ、ネットワーク上のハイレゾ音源、スマートフォンの音楽まで、多様な音源を1台で楽しめる「SC-C70」(100,000円 税別)。コンパクト且つ洗練されたデザインに、Technicsならではの音響技術でスケール感豊かな力強いサウンドを実現。上質な音楽のある毎日を彩ってくれる


本稿掲載の『SWITCH Vol.36 No.1 特集:良い音の鳴る場所』はこちら




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