【イベントレポート 後編】MONKEY vol.10刊行記念 柴田元幸トーク&朗読会


【イベントレポート】
MONKEY vol.10刊行記念
柴田元幸トーク&朗読会


 西麻布のRainy Day Bookstore&Cafeで10月22日、「MONKEY Vol.10」の刊行を記念して、同誌の責任編集を務める柴田元幸さんによるトークイベントが行われた。節目となる10号目を迎えた同誌のテーマは「映画を夢みて」。映画と文学が今宵、一人の翻訳家を通して交叉する──。

【 後編 】
 
■映画史に多大な影響を与えた作家「エドガー・アラン・ポー」

映画の歴史が始まると文学、特にアメリカ文学との関連で興味深いのはなんと言っても「エドガー・アラン・ポー」だと話す柴田さん。映画の黎明期である19世紀末から20世紀初頭において、ポーは極めて著名な文学者であり、映画の主題をふんだんに提供した人物でもあった。また、「飲んだくれの酔いどれ詩人」という強烈なイメージがあったことから、その物語や詩だけでなく、人生すらも作中に組み込んだ映画が数多く撮られたという。

 そんなポーに関する世界中の映画作品を集めて解説した書籍『The Poe Cinema』によれば、初めてポーに関する映画が登場したのは1908年に作られた『Sherlock Holmes in the Great Murder Mystery』。ポーの代表作『モルグ街の殺人』を題材としながらも、シャーロック・ホームズが推理ではなくトランス状態によって犯人に辿り着くなど、ユニークなアレンジが加わっているという。残念ながらフィルムが紛失しており、現在では鑑賞することが出来ない幻の作品だ。

その翌年の1909年には文字通り『Edgar Allen Poe』という短編作品がD.W.グリフィスによって撮られている。この作品はポーの人生を題材としながらも、ポーの有名な詩である「大鴉」や、ポー作品では美女は高確率で死ぬといったポーの世界観をミックスした一作となっており、こちらは現在でも鑑賞することが出来る。

 この3年後の1912年には別の監督によって同作品の類似作品が撮られたり、短編小説「裏切り心臓(The Tell-Tale Heart)」を題材とした長編映画が前述のグリフィスにより撮られたりと、その後も数々のポー映画が生み出されることになる。特にまとまった形でポー作品を扱ったのが1960年代前半に活躍したB級映画の帝王、映画監督「ロジャー・コーマン」。中でも『赤死病の仮面』は傑作だと柴田さんは話す。

■形を変えて受け継がれるポーの作品

 多くの映画監督によって生み出された作品群は、当然のことながら後世にも影響を与える。その中には誰もが知るあの映画監督も……。

──ロジャー・コーマンが作った映画などを見て育った次の世代の一人として、ティム・バートンがいます。ティム・バートンはロジャー・コーマンのポー作品で数多くの主演を務めた俳優「ヴィンセント・プライス」の大ファン。ティム・バートンが1980年代に初めてプロとして作った短編のアニメがあるんですけど、それは『ヴィンセント』というタイトルです。一人のナレーターが朗読するだけのシンプルなアニメーションで、そのナレーターはヴィンセント・プライス本人がやっています。

 『ヴィンセント』は平凡な家庭に育つ猟奇的な妄想が大好きな男の子「ヴィンセント・マロイ」の物語。怪奇俳優のヴィンセント・プライスに憧れる彼は、何気ない日常も持ち前の妄想力で恐ろしい世界へと変えてしまう。独自の世界観で現実を見つめる男の子は、やがて自身の妄想の世界へとはまり込んで行く。ストップモーション技法で撮影され、ティム・バートンの敬愛するヴィンセント・プライスやポーの「大鴉」なども踏まえた同作品は、まさにティム・バートンの原点とも言える作品だ。


■映画を巡る小説

主に映画に影響を与えた小説をベースに進行した今回のトークイベント。後半で設けられた質疑応答の時間では、その逆の視点から一つの疑問が挙げられた。

Q.映画から影響を受けた小説にはどのようなものがあるのでしょうか。

──まず、スティーヴ・エリクソンの小説は全部そうだと思います。一作目からして、超大作「ナポレオン」を撮ったアベル・ガンスを明らかにモデルにした小説や、今年僕が翻訳を出した、映画しか頭になく映画で世界が構築されているような人物が主人公の『ゼロヴィル』とか、エリクソンは明らかにそうだと思いますね。すみません、あとは自分が関わったものがまず頭に浮かんでしまうんですが、ポール・オースター。

オースターと映画との関わりは必ずしも幸福ではない部分も多いのですが、オースターが映画作りに実際に関わったことによって、その後に書いた映画を巡る小説は素晴らしいものになっています。具体的に言えば『幻影の書』ですね。サイレントコメディを作っていて、突如失踪した男の物語なのですが、その小説の男が作ったサイレント映画の描写は本当に素晴らしいです。ああいったものはオースターが映画製作の現場の空気を吸ったことで書けるようになった、そういう力強さを感じます。

──映画を巡る小説として最高だと思うのはルー・リードが大学で教わっていたデルモア・シュウォーツの「夢で責任が始まる(In Dreams Begin Responsibilities)」という短編小説です。この作品では主人公が夢の中で古い映画を観ている、先ほどお話ししたグリフィスのようなゼロ年代の映画を観ているんです。そして、その映画の中でお父さんとお母さんの若い頃を観る、という仕掛けから始まります。これは素晴らしい短編小説ですよ。翻訳は1988年に僕が村上春樹さんや川本三郎さん、30代の若手アメリカ研究者ら5人で作ったアンソロジー『and Other Stories』の中で畑中佳樹君が訳しています。訳文も素晴らしいし、とても良い小説ですね。

■柴田さん好みのポー映画

 ポー映画の中でも、柴田さんが特に好みというのがこちら。

──1960年代後半にフランスの映画監督3人が集まって、ポーのオムニバス映画を作っています。日本語のタイトルは『世にも怪奇な物語』。監督はロジェ・ヴァディムとルイ・マル、そしてフェデリコ・フェリーニの3人で、このフェリーニの作品は特に素晴らしいです。

──実を言うと僕はポーの作品を一度も怖いと思ったことは無くて。むしろ怖さと笑っちゃう感じとの境界線上にあるところがポーの面白さだと思っています。そんな中、フェリーニはポーの作品の中では比較的マイナーな「悪魔に首を賭けるな」という短編を現代に舞台を置き換えて作っているんですが、これが本当に怖い。そして、良い映画です。ぜひご覧ください。


 終盤には短編映画に合わせて柴田さんがナレーションを加えるといった試みも行われ、イベントは大盛況のまま幕を閉じた。秋の夜長にはつい本を読もうか、映画を観ようか迷ってしまうこともあるだろう。そんなときはどちらも楽しむことが出来る「MONKEY Vol.10 映画を夢みて」をお手に取ってみてはいかがだろうか。


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