インタビュー (後編) 「没後20年 特別展 星野道夫の旅」に寄せて 写真家・石塚元太良さん

「没後20年 特別展 星野道夫の旅」に寄せて

写真家・石塚元太良さん

(後編)


8月24日から松屋銀座を皮切りに全国4箇所を巡回する「没後20年 特別展 星野道夫の旅」がスタートし、連日多くの来場者で賑わっている。
この展覧会の写真監修のお手伝いをされた写真家の石塚元太良さんに、展覧会の経緯や見どころ、そして星野道夫さんへの思いを訊いた。


−−連続した組写真の展示もありましたね。

組写真の展示は、星野さんの被写体に対する姿勢みたいなものを感じてほしいという意図で作りました。星野さんは決定的な一枚を撮るために、とにかくしつこいくらい同じ被写体を撮影していました。

例えば鯨のジャンプを撮影するとき、デジタルカメラであればその場で撮影内容を確認できるため、いい写真が撮れたら撮影を終えると思うんですが、フィルムカメラだとそれができない。いいショットが撮れたと思っても、それでもなお確信が持てるまでしつこく撮り続けていたんじゃないかと思います。その職業意識、徹底的なこだわりをこの組写真で知ってもらえればと思います。
星野さんの代表作を展示している「マスターピース」のセクションが1枚1枚を見せる空間だとしたら、ここは撮影にかけた時間の広がりを感じてもらえる空間だと思います。




−−実際に現物のポジフィルムを見られる展示もありますね。

はい。今回僕は展示用の写真をセレクトするために、7万点以上におよぶ星野さんのポジフィルムをほぼ全て拝見しました。それは来る日も来る日もライトテーブルでポジフィルムを覗き込み、1点1点くまなく見つめていく作業でした。

そのフィルムを見る過程で、星野さんはとても光の扱いに繊細な方だったんだなと気づきました。デジタルカメラと違ってフィルムカメラは撮り直しがきかないこともあり、光を捉えることが非常に難しいんです。デジタルのように後で少し修正しようということができない。おそらく星野さんは絶妙な瞬間の光を捉えるために、長い時間をかけて光を待ちながら撮影していた。それは僕にとっては新しく発見した星野道夫像でした。

このような行為が展覧会場でも実現できないものかと思い、実際のポジフィルムより少し大きくはしましたが、覗き込むように写真を見ることのできる体験を展示のなかで再現したんです。








−−「Coyote」最新号に寄せていただいたエッセイにある、星野さんのシーカヤックも展示されています。

「星野道夫の部屋」のセクションで星野さんの愛用品を展示することになり、アラスカで保管されている星野さんのカヤックを星野さんのセルフポートレートと一緒に並べたいと考えました。数ある星野さんの愛用品のなかでも、アラスカ先住民族のアイデンティティでもあるシンボリックなシーカヤックをこの空間で展示したいと思いました。
シーカヤックの展示許可は出ましたが、30kg以上もあるそれをアラスカからどうやって運ぶのかという問題が持ち上がり、それなら僕が持ち帰りたいと志願し、アラスカへ行くことになりました。

そして恐れ多くも星野さんのシーカヤックを使って、アラスカの海で少し旅に出かけました。大切な遺品とはいえ、シーカヤックは使用されていないと劣化し、道具としての機能を果たさなくなってしまいますから。そして、アラスカの海で使用するということに星野さんもシーカヤックも喜んでくれるかなと思ったんです。




−−実物を見て本当に美しいカヤックですよね。

本当に美しいですよね。そしてこのシーカヤックには男心をくすぐる機能が満載で、とにかく感動しました。星野さんも、憧れていたこのドイツ製のシーカヤックを購入した時はすごく興奮してウキウキしていたと直子さんが教えてくれました。


−−星野さんは没後20年経った今も幅広い層に愛されていますよね。

そうですよね。没後20年を経てもこんなに大きな回顧展ができる写真家は、他になかなかいないような気がします。「悠久から続く人間と自然の営み」というシリアスなテーマであっても、星野さん、そして星野さんの撮られた写真はユーモアやチャーミングさで人の心にすっと入っていける。このことが、たくさんの人から愛される理由なのかなと思います。


−−最後に展覧会にご来場いただく方へメッセージをお願いします。

この展覧会は星野さんの作品をただ並べただけの展覧会ではなく、ひとりの写真家の人生を丸ごと展示したものだと思っています。見る人によって受け取り方は様々だと思いますが、印象的な言葉や写真など、心を揺さぶられるものを少しでも持ち帰っていただけたら嬉しいなと思っています。





前編にもどる


※各会場によって展示内容が変わる場合があります。

《プロフィール》
石塚元太良
1977年生まれ、写真家。 写真集『Pipeline Alaska』で東川写真新人作家賞受賞。最近の共著に『アラスカへ行きたい』(新潮社)など。「没後20年 特別展 星野道夫の旅」では写真監修に参加。2017年1月には〈Gallery 916〉で個展を開催予定。
http://nomephoto.net


没後20年 特別展 星野道夫の旅

2016年8月で没後20年を迎えるのを機に、星野道夫の「写真家」としての取り組み、 新しい挑戦、葛藤、心の内面を伝える展覧会を開催。

松屋銀座:2016年8月24日(水)〜9月5日(月)
大阪高島屋:2016年9月15日(木)〜9月26日(月)
京都高島屋:2016年9月28日(水)〜10月10日(月)
横浜高島屋:2016年10月19日(木)〜10月30日(月)

展覧会詳細はこちら



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


Coyote No.59 特集:星野道夫の遥かなる旅

北の地に魅せられた星野道夫。
そこには悠久の自然と、その土地に生きる人々がいた。
彼らには厳しい自然と寄り添って生きるための、
智慧としての物語が数多く伝承されている。
星野道夫が亡くなって20年、
北の地の自然と神話の世界に分け入った彼の旅の軌跡を辿る。

本の詳細はこちら


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


TOPICS

ページトップへ