本屋のかお――恵文社一乗寺店(京都・京都)

本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。独自の選書と棚の編集、そして美しい店内に、世界中の本好きが憧れる京都の恵文社一乗寺店。歴史と定評のあるこの店で選書を担う、マネージャーの鎌田さんを訪ねた


京都市左京区、鴨川沿いの出町柳駅から叡山電車に乗って約五分。一乗寺駅で下車し、住宅街を少し歩くと見えてくる煉瓦造りの建物。本好きには言わずと知れた京都の名店、恵文社一乗寺店だ。ペンキの剥げかかった趣のある看板と、ガラス窓から見えるランプの暖かい光につられて扉を開けると、美しく並ぶ本に出迎えられる。選書を手がける鎌田さんに、話を訊いた。

――恵文社のはじまりを教えてください。

「開店は1975年です。当時、金太郎飴と揶揄されるくらいどこも似たような書店ばかりだった中、他にはない特徴的な本屋を目指してはじまりました。近所に芸術大学がいくつかあるのでその関係者が周りに多く住んでいたり、単館系の映画館が近くにあったりしたことも、選書や棚作りに影響を与えたようです。僕がまだ生まれる前のこの町の話やお店のことは、飲み屋で一緒になった近所のおじさんから聞いたりします(笑)」

――鎌田さん、まだ26歳とのこと。

「マネージャーになって三年目。この世代で責任者として書店を任せてもらえることってあまりないと思うので、声がかかった時、これはチャンスだと思いました」

――そもそも書店員になったきっかけは?

「地元がとても田舎で、車で30分くらいかけないと本屋がなかったんです。大学進学で京都に来たら本屋がたくさんあって、すごく楽しくて(笑)。書店でアルバイトをはじめて映画やサブカルチャーのことを教えてくれる上司に出会い、本がもっと面白くなって、今に至ります。本屋の仕事って、自分の興味の範囲を限定しないまま働けるんです。海外文学も好き、映画も好き、アウトドアも好き。それを形にしていくことが快感になってしまいました」

――自分の興味を選書でお客さんに還元していける、ということですね。

「でもこの店は歴史も特徴もあって、“恵文社”という器として成り立っている。“恵文社”という概念を求めて来てくれる方もいるんです。だから選書する自分たちの趣向に偏りすぎないように常に心がけています。もちろん僕らが好きな本を置いているけれど、恵文社の棚はお客さんと一緒に作っている感じ。この本をこんな考えの本と隣り合わせたらどうでしょう、と棚でお客さんに問いかける。うちのお客さんは本を探すのが上手で、そうやってちょっと仕掛けてみると、すっと見つけ出してくれるんです。それが嬉しいですね」

――今後はどんな本屋を目指していますか。

「イベントもやる、ギャラリーもある、雑貨やCDも売っている、本屋っぽくない本屋だけど、そんな“恵文社”という店そのものを楽しんでもらいたい。この店がその人にとっての“本の入り口”になってくれたら嬉しい。馴染みやすいけど本棚はすごいと思われるような書店にしていきたいです」


<プロフィール>
鎌田裕樹(かまたゆうき)

1991年生まれ。千葉県出身。大学進学を機に京都に移住。学生時代からフリーペーパーに書評を執筆するなど精力的に活動。恵文社一乗寺店のマネージャーとして、海外文学などを中心に選書を担いながら、イベントの企画にも挑戦中


【今月の棚】



選書する側の個性が出過ぎないよう気をつけていますが、海外文学の棚は僕の好みが出てしまっている気もする(笑)。学生の頃に読んだ柴田元幸さんの翻訳書『ガラスの街』が僕にとって“本の入り口”とも言える一冊。そこから広がっていった系譜のような棚です




【語りたい3冊】



森の思想家と呼ばれたデイヴィッド・ソローを僕なりに解釈した選書です。彼は毎日近所の森を何時間も散歩して、植物の成長を記録し、独自の暦をつくったり、「歩く」という行為から世界を見つめた人物で、その影響を受けた作品は数多くあります。店頭でフェアを企画した時には、ソローの考え方を拡大して、直接関係のない本も含めて表現しました

『アーバン・アウトドア・ライフ』著=芦澤一洋 編=芦澤紗知子(中央公論新社)

『街と山のあいだ』著=若菜晃子(アノニマ・スタジオ)

『釣歩日記』著=長沼商史(GNU)


<店舗情報>
恵文社一乗寺店
京都市左京区一乗寺仏殿町10
営業時間 10:00-21:00 年中無休(元旦を除く)

(本稿は8月20日発売『SWITCH Vol.36 No.9』に掲載されたものです)





   

本屋のかお――橙書店(福岡・熊本)

本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。連載第26回目は熊本の小さな本屋、橙書店。店主の田尻さんによって1冊ずつ大切に選ばれた店内の本からは、どこか誇らしげな佇まいが感じられた


熊本駅から路面電車に乗って約10分、慶徳校前駅で下車。少し歩くと見えてくる小さなビルの2階にひっそりと橙書店はある。店主の田尻さんが選ぶ本、カウンターでのお喋り、丁寧に淹れられたコーヒー、看板猫の白玉。たった15坪ほどの店内には、田尻さんに大切に扱われているささやかで特別なものがたくさん詰まっていた。

−−熊本地震の影響もあって、2016年に前の店舗から移転をされたんですね。

「15年続けた前の店を一旦閉める時は、自分はもちろんだけど、お客さんがすごく惜しんでくれました。でも新店舗で営業を再開してみたら『前からここに通っていたみたい』と言ってもらえて安心しました」

−−初めて訪れましたが、とても居心地が良いです。店内の工夫やこだわりは?

「前のお店を作る時、古い木を使って、床を張って、天井付近までの本棚を作ってほしいと馴染みの工務店にお願いしました。『わかるど? 汚い感じにすればよかったい』と熊本弁で大工さんにイメージを説明してくれて(笑)。引越しの時にはその棚を全部持ってきて、さらに天井などに使われていた木材も使って新たに棚を作ってもらいました。だからお店は狭くなったけど蔵書数は以前の店舗より増えています」

−−その全てをお一人で選書して、仕入れているんですね。

「基本的には、私の置きたい本を置くだけです。まず出版社ごとに新刊をチェックして気になるものを注文する。それからずっと置いておきたい本の補充。『この本を売りたい』と思ったら、発売から何年経っていても売り続けます。あとは、お店で人と会って話をしていると、今まで自分が読んだことのなかった本にも目が向くようになるんです。そうやって気になった本を書き留めておいて、注文していきます」

−−お客様に本を選んでほしいと頼まれることもあるそうですが、その人のための一冊はどうやって選ぶのですか。

「あまり知らないお客さんには『最近読んで良かった本は?』『小説と随筆だったらどっち?』と、少し質問をします。常連さんは、どんな本をよく読むのか知っているし、カウンターで話を聞いていて、最近疲れ気味だとか恋愛がうまくいっていないとか(笑)、その時の状況もわかるので、それに合わせて勧めています」

−−田尻さんが編集されている文芸誌『アルテリ』をはじめ、橙書店を中心に、熊本で文芸が盛んになっている印象があります。

「ずっと熊本にいて井の中の蛙なので、そういう実感はないけれど、石牟礼道子さんや渡辺京二さんなど、熊本を離れずに活動する作家がいることも大きいと思います。『アルテリ』もそういう人たちに巻き込まれて始まった。詩人の伊藤比呂美さんが『ここを熊本文学隊の拠点にする!』と勝手に決めてしまったり(笑)。賑やかですね」


<プロフィール>
田尻久子(たじりひさこ)

2001年、もともと経営していた喫茶店と雑貨の店orangeの隣に橙書店をオープン。熊本の文芸誌『アルテリ』編集長。著書に『猫はしっぽでしゃべる』(ナナロク社)がある。2017年、第39回サントリー地域文化賞受賞


【今月の棚】



雑誌に載っていたフランスのサン・ルイ島の本屋を参考にして作ってもらった天井までの本棚。どんどん本が増えて、三段分ほどしかなかった文庫も今は一面に。壁には谷川俊太郎さんの落書き。前のお店の壁に書いてあったものを持ってきて、そのまま使いました




【語りたい3冊】



テーマを決めて選んでいないので、ジャンルも作家の出身国も様々だけど、どの作品も“喪失”がひとつの主題です。それが描けているものには良いものが多い。何かを失ったことがない人っていないから、いろんな人の共通言語になって、心が揺さぶられるんだと思います

『ギリシャ語の時間』著=ハン・ガン 訳=斎藤真理子(晶文社)

『花びら供養』著=石牟礼道子(平凡社)

『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』著=ブレイディみかこ(みすず書房)


<店舗情報>
橙書店
熊本市中央区練兵町54 松田ビル2F
営業時間 月〜土 11:30-20:00 日 11:30-17:00
火曜定休

(本稿は7月20日発売『SWITCH Vol.36 No.8』に掲載されたものです)


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本屋のかお――ブックスキューブリック箱崎店(福岡・福岡)

本棚と書店員。2つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。福岡のブックスキューブリック箱崎店の店長、大井さんが掲げるキーワードは「居場所」。家でもなく会社でもない、もう一つの場として、街や人との繋がりを生み出す小さな本屋を訪ねた


2001年、福岡市けやき通りに一軒の街の本屋がオープンした。映画『2001年宇宙の旅』の監督の名前にあやかり、ブックスキューブリックと名付けられた。出版不況が既に叫ばれ始めていた当時、書店業未経験者であった店長・大井さんが新刊書店を立ち上げることは、宇宙船ディスカバリー号よろしく大冒険だったに違いない。しかし周囲の心配をよそに、この小さな本屋は順調に軌道に乗る。2008年には、博多駅から電車で約5分の箱崎駅近くにイベントもできるカフェスペースを備えた姉妹店をオープン。ここではなんと2年前から店内でパン屋まで始めたという。本屋の枠を越え挑戦し続ける大井さんに、本屋と街との繋がりについて話を訊いた。

――ここ箱崎店は今年で開店10周年ですね。

「箱崎店を始めた一番の理由はイベントをやりたかったからです。1店舗目は比較的狭いから、本を売るので精一杯。そんな時、1、2階を使えるこの物件がちょうどよく見つかった。箱崎は歴史もありながら若い人も多く、市内中心部とは違った独特で面白い土地。本屋と同時に昼間はカフェとギャラリー、夜は作家やアーティストを招いてイベントを開催しようという計画で始めました。パン屋は、以前隣にあった料理教室がベーグルを販売していたのですが、教室がなくなってしまったので、自分でやることにしました」

――カフェ、パン屋、イベント。書店業に加えて様々なことに挑戦する理由は?

「とにかく本屋が好きで、続けていきたいから。しっかり利益を出すために、飲食は経営の助けになります。単純に、私がコーヒー好きだからというのもある(笑)。イベントは、この店に来る人にとってここが“居場所”になればいいなと思うからです」

――居場所というのは?

「インターネットやSNSなど、いろんな人と繋がるツールができて便利になったけど、そろそろみんなが繋がりの質の大切さに気付き始めていると思います。誰彼なく繋がるのではなくて、考え方や志が近い人との濃い繋がりが欲しいという意識が生まれている。そうすると、自分が何を大事にしてどう感じているか、きちんと表明していかなければいけない。その時に、読書会や好きな作家のトークショーのように、本をきっかけとしたテーマがあると語りやすいと思うんです。そうやって人と繋がれる場所が家や職場の他にもあるといい」

――たしかに、そんな本屋さんが自分の住む街にもあったら嬉しいです。

「地元の出版社などと協力して、福岡の街ぐるみの本のイベント『ブックオカ』も主催しています。こうした地域との繋がりや街づくりに惹かれて働いてくれているスタッフもいる。地方でこんな本屋がもっと増えてきたら、その街に行きたいという人も出てくるんじゃないかな」


<プロフィール>
大井実(おおいみのる)

ファッション業界、イタリア生活、イベント企画などの経験を経て、39歳で福岡で書店を開業。街のイベント運営などにも携わる。創業の理念や感覚を活かしながらスタッフが楽しく自主的に働く仕組みづくりが経営者としての今の課題


【今月の棚】



取次配本に頼らず全て自ら選書した本を並べることにこだわっています。コンパクトな店内にひと通りのジャンルを揃える「小さな総合書店」。自分のような本好きの社会人をお客さんとして想定した棚作りをしています。生活やまちづくりの本も多いです




【語りたい3冊】



『ローカルブックストアである――福岡ブックスキューブリック』編集=大井実(晶文社)
この本屋の「これまで」と「これから」について書いた自著

『ツナパハ・ヌワラエリヤ スリランカカリーをつくろう』著=前田庸(書肆侃侃房)
けやき通り店の近所にあるカレー屋さんのレシピ本。スパイシーでダシが効いている奥深い味に中毒状態

『中川ワニ ジャズブック』著=中川ワニ(あうん堂本舗)
珈琲焙煎人の著者によるジャズCDエッセイ本。表紙を飾るタダジュンさんの絵が大好きで、四月に版画展も開催しました


<店舗情報>
ブックスキューブリック箱崎店
福岡県福岡市東区箱崎1-5-14
営業時間 10:30〜20:00
*ギャラリーにて7/10-8/5まで松本大洋『「いる」じゃん』原画展開催中

(本稿は6月20日発売『SWITCH Vol.36 No.7』に掲載されたものです)


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本屋のかお――長崎書店(熊本・熊本)

本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。連載第24回目は、熊本では誰もが知る明治時代から続く老舗、長崎書店。間口は広く、敷居は低く、しかし奥深くもある本屋は、文化の発信地としても街に愛されてきた


明治二十二年、創業者の名前を取った長崎次郎書店の支店として開業された長崎書店は、来年で開店百三十周年。開店当時は支店だったが、現在は経営体制が変わり、熊本市のメインストリート・上通商店街にあるこの長崎書店が本店の役割を果たしている。レンガ敷きの道と新緑が茂る大きなクスノキが美しいオークス通りに面していて、知的でシックな印象の紺色の看板が目印。街の人がつい立ち寄ってしまうのも頷ける、落ち着いた佇まいだ。書店員の齊藤さんに話を訊くと、この書店が熊本の街に長く根付き、信頼される理由が見えてきた。

――長い歴史のある書店ですが、建物は新しくて綺麗ですね。

「開店当時から場所は変わりませんが、十二年前にリニューアルをしました。それまでなかったギャラリーを店内に作ったり、三階にあった倉庫をホールに改装したりしました。ギャラリーは漫画や絵本の原画などの展示、ホールはトークイベントやワークショップなどに使っています」

――そういったスペースを作ったのはどうしてですか。

「本を売るためだけの場所ではなくて、ここが街の文化の拠点になるようにと考えてのことだと思います。地域貢献として熊本の文化向上の一翼を担っていきたいという思いがあるんです」

――街の本屋のひとつの重要な役割ですね。

「人文書と芸術書をお店の入り口付近に置いているのも、そういう理由からです。通常、書店ではよく売れていく雑誌を店頭に置く傾向にありますが、ここでは硬めの内容の人文書を並べていて、お客様もよく手に取ってくださっています。ただ、あくまでも街の本屋なので、間口は広く、敷居は低くすることも意識しています。扱うジャンルを絞っていないので、幅広い層のお客様に来ていただきたい。世代を超えて利用してくださっている地元の常連さんもたくさんいます」

――街とのつながりをよく考えたお店作りをされているように感じられます。

「そうですね。郷土の本棚をしっかり作っているのもこのお店の特徴です。熊本は地元愛が強い方も多いですし、知っておかなければならない歴史上の重要な出来事もたくさんあります。水俣病もあったし、ハンセン病の施設もあった。そういった歴史の資料から石牟礼道子さんなどの文学作品まで、熊本の関連本を置いています」

――今後どんな書店にしていきたいですか。

「僕は本が好きという以上に、本屋という場所が好き。というのも、並んでいる本を見ると、どんなものごとが世の中にあって、人々がいま何に関心を持っているのかが見えてきて面白いんです。読んで身になる本を見つけてもらうことはもちろん、本の並びや展示を見て楽しんでもらえるような、街に根ざした本屋を目指しています」

<プロフィール>
齊藤仁昭(さいとうよしあき)

熊本出身、東京暮らしを経てUターン。入社3年目。本店と兄弟店の長崎次郎書店、両方の店頭に立つ。映画、音楽をはじめ、男性向けカルチャー棚を担当する。趣味のバンド活動の担当はドラム。愛読書は蓮實重彦の『映画狂人日記』


【今月の棚】


探している本の横に置いてある、知らない本が自然に目に入ってくるのが本屋の良いところ。この本を手に取る人は、他にどんなことを考えるんだろう、と想像しながら本を並べています。本の種類の幅を狭めないよう、自分の趣味に寄らないように気をつけています




【語りたい3冊】



『なnD 6』編集=森田真規、戸塚泰雄、小林英治(nu)
ミニコミ誌を各々発行している3人が年に一回発行するリトルマガジン

『リズムの本質』著=ルートヴィヒ・クラーゲス 訳=杉浦實(みすず書房)
音楽だけでなく、星の動き、波、紋様、生活など様々なものから「リズムとは何か」が哲学的に考えられています

『エドワード・ヤン――再考/再見』(フィルムアート社)
台湾の映画監督とその作品についての評論やエッセイをまとめた一冊。計算された複雑な内容をシンプルに撮る彼の映画がたまらなく好きです


<店舗情報>
長崎書店
熊本県熊本市中央区上通町6-23
営業時間 10:00〜21:00
*ギャラリーにて7/1まで松本大洋『「いる」じゃん』原画展開催中


(本稿は5月20日発売『SWITCH Vol.36 No.6』に掲載されたものです)


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本屋のかお――廣文館 金座街本店

本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。連載第23回目は、広島を拠点に書店事業を興し100年以上の廣文館を訪ねた。原爆もカープの優勝も街と一緒に経験してきた、広島の人々に愛される老舗書店だ


広島の「市民の足」として戦前から走り続ける路面電車、広島電鉄。歴史を感じさせるレトロな車両に揺られ車窓からの景色を眺めれば、地元民になったような気分が味わえる。広島駅から市内を走ること約10分。八丁堀駅で降りると、広島金座街商店街の入り口が見える。小雨の降る夕方、傘のいらない屋根付きアーケードの商店街は、買い物袋を抱えた主婦や学校帰りの学生で賑わっていた。その一角に店を構える老舗書店、廣文館金座街本店。帰り道に立ち寄る人々で活気付く店内で、売り場を担当する久枝さんに話を訊いた。

−−まずは、お店の歴史から教えてください。

「会社は1915(大正4)年創業、今年で103年目になります。創業当時から広島を拠点としている書店で、現在は県内に14店舗、その他に岡山、東京にも進出しています。市内中心部にあるこの金座街本店は、1945年の原爆投下で一度倒壊してしまいましたが、戦後建て直し、地下1階から地上3階まで4フロアの売り場を有する今のお店の原型になりました」

−−どんなお客様がいらっしゃいますか。

「商店街に買い物に来る地元のお客様はもちろんですが、観光客、外国人の方も多いです。原爆ドームや平和記念公園も近いので、ご覧になられた後に資料や関連書籍を探しにいらしたり、おりづる再生紙(平和記念公園に世界中から届く折り鶴をリサイクルして作られた紙)を利用した栞やハガキなどを買っていかれます」

−−本以外の商品も扱っているんですね。

「書籍だけでなく、関連商品も扱う複合書店です。特に広島カープをはじめ、地元のスポーツチームを応援しているので、グッズは品揃えも豊富です」

−−漫画家や作家直筆のカープ優勝記念色紙などがたくさん展示してあり、カープカラーの真っ赤な売り場が目立っています。

「カープグッズを売っているお店は書店でなくてもたくさんあるので、本屋だからこそできるアプローチの仕方で盛り上げています。作家や野球雑誌の版元との繋がりがあるからこそできる展示なんです」

−−あの売り場目当てで来店するお客様もいらっしゃるのでは。

「はい。ただ、もともと本屋なのでやはり本を大切にしたい。扱う商品は読書との繋がりを常に意識しています。例えばカープグッズの場合、もともと熱心なファンの方がカープの本や雑誌を求めて定期的にお店に足を運んでくださっていました。そこで、グッズや観戦チケットを一緒に買って、そのまま応援に行ってもらえたらと考え、本をベースに他の商品を仕入れたり、チケットの販売もするようになりました。他にも、読者と作家の接点を作るためイベントを定期的に開催するなど、読書をきっかけに世界が広がっていく体験をお客様に提供できるような書店を目指しています」

<プロフィール>
久枝哲也(ひさえだてつや)

広島市出身。駅前の店舗でアルバイトから始め、現在入社6年目。売り場では店頭の話題書の棚を任され、日々新聞などメディアのチェックを欠かさない。好きな作家は伊坂幸太郎。好きな野球チームはもちろん広島カープ


【今月の棚】



店頭の棚では新聞などメディアで取り上げられた書籍を中心に、話題の本を並べています。広島では全国紙に対して地元紙のシェアが大きいそうで、それを読んで買いにくるお客様も多いです。お客様が探さずに見つけられるように、店頭で目立たせています




【語りたい3冊】



『カウンターの向こうの8月6日』著=冨江洋次郎(光文社)
広島市内でバーを経営していた被爆三世の筆者。毎月お店に被爆者を招いて開催していた「証言の会」をまとめた一冊

『ワカコ酒(1)』著=新久千映(徳間書店)
広島出身の漫画家による居酒屋一人酒漫画。仕事帰りに一杯飲みたくなること請け合い

『HIROSHIMA ATHLETE MAGAZINE』(サンフィールド)
全国誌には載らないコアな情報が満載の地元スポーツ雑誌です。地元だからこそ取材できる細かい情報を求めて、東京から取り寄せるお客様もいるほど


<店舗情報>
廣文館 金座街本店
広島県広島市中区本通1-11
営業時間 9:00〜22:00


(本稿は4月20日発売『SWITCH Vol.36 No.5』に掲載されたものです)


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本屋のかお――ジュンク堂書店那覇店(沖縄・那覇)

本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。沖縄県最大の売り場面積と品揃えを誇るジュンク堂書店那覇店。膨大な蔵書数の中から“一冊”に出会ってもらう鍵は、お客様との距離を縮める接客にあり


南国調のカラフルなお土産や三線の奏でるBGMで一年中賑わう那覇市の観光の中心、国際通り。脇道を一本入り五分ほど歩くと、ビルの最上階から堂々と掲げられた緑のジュンク堂カラーの大きな垂れ幕が見えてくる。ビルの地下一階から地上三階まで重厚な書棚がずらりと並ぶここ、ジュンク堂書店那覇店は、県内一の広さと品揃えを誇る。沖縄には小規模な出版社も多く、また個人の自費出版も盛んで、他の地域では手に入りにくい沖縄関連本も多いが、そうした書籍も丁寧に取り揃えている。沖縄に暮らす地元の人たちからも観光客からも信頼の厚いこの書店の未来を担う新入社員の尾崎さんに話を訊いた。

−−まずは、ここジュンク堂書店那覇店で働くことになった経緯から教えてください。

「昔から読書が好きでしたが、周りにはそういう友達があまりいなくて『読書ってこんなに面白いのに!』とその魅力をいろんな人に伝えたいと、書店員になることを目指しました。せっかくなら様々な本を大勢に紹介できるお店で働きたいと思い、沖縄で最も広く品揃えも豊富なジュンク堂書店を選んだんです」

−−大型書店ですが、それぞれのフロアで書店員さんがお客さんと密接なやり取りをされている姿が印象的でした。

「売り場面積と品揃えが何よりも自慢ですが、接客にもこだわっていて、声出しや笑顔を大切にしています。本を探しているお客様には、積極的にお声がけするよう心掛けています。もちろん一人で選びたいという方もいらっしゃるのでタイミングが難しいのですが、なるべくコミュニケーションをとりたいと思っていて」

−−先程もお客様と一緒に『あれでもない、これでもない』と親身になって本を探されている尾崎さんの姿をお見かけしました。

「特定の本ではなく、なんとなくのイメージを元に本を探されていたので、そのイメージに合った本を、お客様のお話をお聞きしながら一緒に探していました。検索機やネットショッピングではできない、リアル書店ならではの本の選び方ですよね。特にご年配の方はお話しするのが好きな方が多いので、つい世間話のようになってしまうことも多くて(笑)」

−−お店の特徴である丁寧な接客が、お客様と書店員の距離を縮めているんですね。

「そうですね。お客様だけではなくて、地元の出版社とも親密でいい関係を築いています。例えば雑誌の最新号が出るたびに、開店前の九時に台車を引いて『おはようございます、持ってきました!』と直接お持ちいただいて、棚作りまで手伝ってくださる出版社の方もいます。すごく気持ちがよくて、頑張ってたくさん売りたいという気持ちになるんです。そうした出版社や本の熱量をお客様に伝えられる接客や棚作りを目指していきたいです」



<プロフィール>
尾崎夏美(おざきなつみ)

生まれも育ちも沖縄のうちなーんちゅ。趣味は映画鑑賞。入社一年目で雑誌担当。文芸好きで入社まで雑誌はあまり読まなかったというが、SNSの口コミや芸能ニュースなどで流行や話題のチェックを欠かさず、売り場を盛り上げている


【今月の棚】



観光客向けのガイド本を集めた別の売り場もありますが、ここでは主に沖縄から発進する文化や暮らしを取り上げた情報誌を置いています。沖縄に住んでいる人も観光で沖縄に来た人も興味がある情報なので、幅広い層のお客様を棚の前で見かけます




【語りたい3冊】



『おきなわいちば』(光文堂コミュニケーションズ)
たくさんある沖縄の情報誌の中でも、沖縄に実際に住んでいる人の暮らしがよくわかるディープな内容です

『星の王子様』著=サン=テグジュペリ 訳=奥本大三郎(白泉社)
名作なので絵本から文庫まで様々な種類があります。当店も10種類程扱っていますが、絵本は要所がぎゅっと詰め込まれていて読みやすいです

『蹴りたい背中』著=綿矢りさ(河出書房新社)
書店員になるきっかけになったとも言える、私の大事な一冊。日本語の表現の美しさに感動しました


<店舗情報>
ジュンク堂書店 那覇店
沖縄県那覇市牧志1-19-29 D-naha B1〜3F
営業時間 月〜土 10:00-22:00


(本稿は2月20日発売『SWITCH Vol.36 No.3』に掲載されたものです)


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本屋のかお――住吉書房元住吉本店(神奈川・元住吉)

本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。連載21回目は、神奈川・元住吉のユニークな商店街の途上に位置する、総売り場面積約300坪の住吉書房元住吉本店。宮下店長が語るのは懐かしくも新しい、大きな書店と地域とのあり方


近年、東急東横線の武蔵小杉駅では再開発が進み、タワーマンションや大型商業施設が次々に建設されている。その変貌を横目に、独自の街並みを展開し続けているのが一駅隣の元住吉駅だ。西口には童話『ブレーメンの音楽隊』にちなむ約550メートルの「ブレーメン通り商店街」が続き、日中は老若男女さまざまな人で賑わう。毎年十月にはドイツ・ブレーメン州から取り入れた祭典「フライマルクト」が催され、10万人が訪れるなど活気に溢れている。童話に登場する動物たちがあしらわれたアーチを抜けて徒歩1分。昨年3月にリニューアルしたばかりの「住吉書房元住吉本店」が見えてくる。ビル3フロアに入居する店舗ながら、その趣から感じるのは昔ながらの街の本屋の温かみ。宮下店長に話を訊いた。


−−首都圏に15の支店をもつ住吉書房ですが、当初は別の業態だったそうですね。

「創業時は『やぶそば』という蕎麦屋でした。書店業の始まりは1971年です。その後、何度かの改装を経て現在に至ります」


−−棚を作る上で意識されていることは?

「強いて言えば大きく宣伝されないジャンルのムック本などにも力を入れていますね。元住吉という土地柄もあって、このお店には趣味嗜好が異なる、さまざまな方がいらっしゃいます。そんなお客様のニーズに応えられるよう、ライフスタイルからスポーツ、占いなどの小さなジャンルまで、ポップや表紙を見せる展開で、新刊や売れ筋がわかりやすい棚づくりを心がけています」


−−日頃から実用的なジャンルにも力を入れている影響か、2017年に川崎フロンターレがJ1を制覇した際には特集誌を求めて、ファンが殺到したのだとか。

「川崎フロンターレは会社全体で応援しているんですよ。あと、元住吉本店は他の店舗に比べ、お客様と店員が頻繁にコミュニケーションを取るなど距離感が近く、温かみがあるんですよね。検索機がないからかもしれませんが(笑)。商店街自体もとても活気があるので、その空気も店の中に伝わってきているのかもしれません。街ぐるみのイベントも頻繁に行われていて、ハロウィンの際はうちのお店も商店街の方々とともに、仮装姿で来店する子どもたちにお菓子を配りました」


−−多様なお店が一丸となり、場を賑やかにする様子はブレーメンの物語のようです。

「本屋は“楽しめる場所”であるということが一番だと思います。世の中ではあまり知られていなくても、切り口が斬新であったり、装丁や手触りまでこだわったユニークな本が入荷すると、出版社の努力に感銘を受けるんですよね。そういったものを伝えることで、なにか新しい価値観と出会ってもらえると嬉しいです。“大きいけれども距離感は街の書店”。その意識を大切に、これからも地域の方々にとって身近なお店を目指したいですね」



<プロフィール>
宮下康彦(みやしたやすひこ)

1972年、藤沢市生まれ。1996年住吉書房入社。複数の支店での勤務を経験後、本店店長に就任。一時他店へ移動となるも2010年の本店リニューアルの際に再び本店店長へ。趣味は映画観賞とレトロな雰囲気が漂う老舗の喫茶店巡り


【今月の棚】



全体としてはどのジャンルも偏りが出ないような棚づくりを心がけています。ただ、個人的に力を入れているのが「コーヒーと映画の棚」です。テーマに沿った人気の高いムック本を中心に、新刊・既刊に関わらず内容が面白いものを揃えています




【語りたい3冊】



『POPEYE 特別編集 本と映画のはなし』(マガジンハウス)
著名人のマイフェイバリットな本と映画を紹介しているムック本で、読後はそれらの作品に触れたくなること間違いなし!

『ニッポンの編曲家』著=川瀬泰雄・吉田格・梶田昌史・田渕浩久(早川書房)
80年代歌謡曲の秀逸な編曲を手がけた編曲家や、スタジオミュージシャンの秘密に迫ったユニークな一冊 

『新装版 日本字フリースタイル・コンプリート』著=稲田茂(誠文堂新光社)
レトロ調の描き文字が満載。文字の表現内容もクスリときて、眺めてるだけで癒されます


<店舗情報>
住吉書房元住吉本店

神奈川県川崎市中原区木月1-22-7
営業時間 月〜土 10:00-23:00 日 10:00-22:30


(本稿は1月20日発売『SWITCH Vol.36 No.2』に掲載されたものです)


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本屋のかお――16の小さな専門書店(千葉・千葉)

本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。連載第20回は、千葉にオープンしたばかりの「16の小さな専門書店」、鈴木店長に話を訊いた。知らなかった本に出会える工夫がたくさん詰まったこの書店のこだわりと、今後の展望について


今年7月、栃木県小山市のある本屋が惜しまれつつ閉店した。読者を楽しませる棚の工夫でファンも多い本屋だっただけに残念な知らせだった。だが悲しみも束の間、そこに務めていた名店長・鈴木さんが、千葉で9月にオープンしたばかりの本屋の店長になった、との噂を聞きつけた。一体どんな本屋になったのか。さっそく千葉へ向かった。JR千葉駅前、9月にリニューアルオープンしたそごう千葉店のJUNNU館3階。エスカレーターを六角形のフロアの中心に据えて、放射線状にずらりと書棚が並ぶ。ジャンルごとに屋号を持ち「16の小さな専門書店」と名付けられてはいるが、店長は一人、鈴木さんだ。店の立ち上げのことから今後の展望まで、話を訊いた。

――書店員になった経緯を教えてください。

「18歳の頃、デート代を稼ぐために本屋でアルバイトを始めたんです(笑)。たまたま入った本屋のアルバイト募集の張り紙を見つけて。子どもの頃から本屋にはよく行っていたから、気軽に始めやすかったのかもしれません」


――昔から本がお好きだったんですね。

「ただ、若い頃は漫画しか読んでいませんでした。漫画家になりたいと思っていたこともあって。でも、漫画って絵が描けても話が作れないとだめなんです。20代では社会経験もあまりないので、話が作れない。だから、知識を補おうとノンフィクションや歴史の本を読むようになりました。それが結果的に今の仕事につながっています」


――この書店でも立ち上げ当初から選書はほとんど一人で担当されているとか。

「通常、書店の開店準備は3、4カ月でやるところ、約1カ月しかなかったので大変でした。選書以外にもやることはたくさんあって、“複数の専門書店”というコンセプトはもともとできていましたが、店内や什器のデザインにも図面の段階から携わりました。デザイナーに注文をして、棚の角度や平台を工夫し、表紙がよく見えるようにこだわっているんです」


――表紙に惹かれて、知らなかった本に出会うこともありますよね。

「そうなんです。本を手に取るきっかけになれば、と。あと、パネルやポップで作家の略歴や作品背景などを紹介するように意識しています。そういう情報を知らないと、面白さがわからない作品も多いから」


――定期的に開催されているイベントも、作品を知るきっかけになります。

「いまは海外コミックのイベントを予定しています。それも、一回だけでなく何度も開催したいと思っていて。海外コミックを紹介して読者を増やす発信地にしたい。海外文学などもそうですが、一定数のファンは必ずどこかにいるのに、その人たちが集まる場所がまだないジャンルってあるんです。そういった彷徨っている人たちが集まる拠点になっていけば嬉しいですね」



<プロフィール>
鈴木毅(すずきたけし)

栃木県小山市の進駸堂中久喜本店の店長を経て今年の9月より現職。取次による指定配本は一切受けず、すべての本を独自の選書で仕入れて売り場作りを行っている。趣味はフライフィッシング。釣り雑誌の連載で映画のコラムと挿絵も担当する


【今月の棚】



エドワード・ホッパーという画家の絵が装幀に使われている海外文学の本を集め、彼のプロフィールと一緒に紹介しています。こういう情報が作品を知るフックになればいいな、と思って。買う本はなくても何か面白いネタを掴んで帰ってもらえたら嬉しいです




【語りたい3冊】



『塩素の味』作=バスティアン・ヴィヴェス 訳=原正人(小学館集英社プロダクション)
海外漫画を読んでみたいけど敷居が高い、と思っている人におすすめ

『オリーヴ・キタリッジの生活』著=エリザベス・ストラウト 訳=小川高義(早川書房)
アメリカの港町に住む家族の物語。とあるシーンの描写が感動的に素晴らしく、そこだけでも読んだ価値があると思ったほど

『火を熾す』著=ジャック・ロンドン 訳=柴田元幸(スイッチ・パブリッシング)
シンプルで台詞もなく、無駄が一切ない。人生の一冊です


<店舗情報>
16の小さな専門書店

千葉県千葉市中央区新町1001番地 そごう千葉店JUNNU3階
10:00-20:00


(本稿は12月20日発売『SWITCH Vol.36 No.1』に掲載されたものです)


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本屋のかお――リブロ リウボウブックセンター店(沖縄・那覇)

本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。連載第19回目は、那覇市中心部、沖縄最大の百貨店に店を構えるリブロリウボウブックセンター店。郷土本を担当する宮里さんとゆんたく(おしゃべり)すれば、沖縄ならではの本事情が見えてくる


那覇空港から都市モノレールの「ゆいレール」に乗って十五分ほど。沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」のメロディが聞こえてきたら、県庁前駅到着の合図。初秋の沖縄はまだ暑く、ホームに降りるとむわっと南国の空気に包まれた。今回訪問したのはリブロリウボウブックセンター店。県の行政機関が集まる中心部であり、観光名所「国際通り」も近いからか、店内は地元の人や観光客で賑わっていた。その中で特徴的だったのは、「郷土本」と書かれた棚。ガイドブックから重厚な表紙の歴史本まで、沖縄関連の本だけがずらりと並ぶ。棚を担当する宮里さんに話を訊くと、土地や歴史と関わりの深い、沖縄の本事情が見えてきた。


――「郷土本」という棚があるんですね。他の地域ではあまり見かけません。

「沖縄ではどんなに小さな書店でも必ず郷土本のスペースがありますね。ないと違和感を覚えるくらいです。特に、沖縄独自の行事に関する本や基地問題についての本は問い合わせも多く、よく売れるので取り揃えています。そうした中で、うちでは毎年、県産本フェアもやっているんですよ」


――「県産本」とは?

「沖縄の出版社や地元の人たちが作った沖縄本のことです。地元の出版社がこんなに頑張っているんだよ、ということを知ってほしいという思いから、出版社の会『県産本ネットワーク』と当店前身の『文教図書』がフェアを始めました。最初は地元の人も知らなくて、『こんなにたくさんあるの?』という感じでしたが、今は認知されてきてフェアも毎回盛り上がっています。また、これとは別に『ブックパーリー』という沖縄全島を縦断した本屋のイベントも毎年秋頃、約二カ月間にわたって開催していて、参加店は百店以上、トークショーなどの関連イベントは五十以上にもなります」


――出版社も、書店も、沖縄は本への取り組みに熱心なんですね。

「そうですね。読者の本に対する意識はとても高いです。理由としては、まず一つに基地問題などの“情報を得るため”というのが挙げられると思います。沖縄は主な新聞社が二社しかないこともあって、読者は様々な意見を本から得ようとします。様々な意見や政策に賛成するにも反対するにも、まず情報を得なければ、と」


――なるほど。それは沖縄ならではですね。

「また、“歴史を残していく”ために本が必要という考えがあるのも、本への意識が高い理由だと思います。売り場にいると、沖縄の歴史の本に対する問い合わせが多くて、そのまま店員と話し込んでしまう方もいるんです。『伝えていかないといけないよ』と沖縄戦の話をされて、私も話を聞いていて泣いてしまったこともあります。しかもそんなことが一度や二度ではない。店頭で土地の歴史について熱心に話し込むなんて、他ではあまりない光景ではないでしょうか」


<プロフィール>
宮里ゆり子(みやざとゆりこ)
学生の頃、放課後は毎日のように本屋で立ち読みをしていたほどの読書好き。通い詰めた地元の球陽堂書房で働き始め、その後2004年にリブロに入社。管理が難しく最初は戸惑っていた郷土本も、今では担当して8年のベテランに


【今月の棚】



郷土本といっても、子ども向けの絵本から歴史本、写真集などジャンルは幅広いです。できてはなくなっていく地元の出版社や個人出版の本も多く、お客様に聞かれて調べながら覚えていく、という感じ。データで管理しきれない県産本の扱いは、記憶が頼りです




【語りたい3冊】



 porte』(東洋企画)観光客にも地元の人にも人気な県産本です。印刷が本業の出版社が作っているので、写真の色へのこだわりが特長です ◆悗海譴世韻話里辰討きたい 琉球・沖縄のこと』新城俊昭(沖縄時事出版)一冊読めば沖縄のことがまるわかり。学校教材としても使われていますが、こういう勉強って、大人になった時の方がおもしろかったりしますよね 『Okinawa Diary 2018』(東洋企画)新暦の横に旧暦や沖縄の行事が書いてあったり、ゆいレールの時刻表や料金なども載っています。一家に一冊あると便利


<店舗情報>
リブロ リウボウブックセンター店

沖縄県那覇市久茂地1-1-1 デパートリウボウ7F
10:00-20:30


(本稿は11月20日発売『SWITCH Vol.35 No.12』に掲載されたものです)


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本屋のかお――銀座 蔦屋書店(東京・銀座)

本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。
世界中の高級ブランド店が集まるだけでなく、東京オリンピックを控え日本文化の発信地としても 注目されている「GINZA SIX」。連載第18回目は、そのワンフロアを担う銀座蔦屋書店を訪ねた


銀座中央通りに面して建てられた「GINZA SIX」。日本を代表する建築家、谷口吉生が手がけた壮観な外観はひさしや暖簾をイメージしていて、近代的だが伝統的な日本らしさも感じられる。人の流れに乗ってエントランスをくぐり、圧巻の吹き抜けに浮かぶ草間彌生のポップなインスタレーションを眺めつつエスカレーターを上がっていく。目的地の銀座蔦屋書店の店頭ではビッグブックと呼ばれる巨大アートブックに出迎えられ、奈良美智や名和晃平の作品が展示される店内はまるで美術館のようだ。その空間で選書を担うのが、コンシェルジュの美土路さん。「話したいことがたくさんあります」と文字でぎっしり埋まったメモを用意して取材に応じてくれた。


――最近、銀座の街はアートに力を入れている印象があります。

「もともと銀座は日本で一番画廊が多い街なんです。ただ、最近の現代アートの流れが六本木など他の街に移っている中で、もう一度アートの文化を銀座に呼び戻したいという思いがある。この銀座蔦屋書店も『アートのある暮らし』がコンセプトです」


――その中で、美土路さんは漫画を担当されています。

「基本的に蔦屋書店では漫画は取り扱っていないのですが、『漫画も日本の誇るアートのひとつだ』という上司の一声で、ここ銀座蔦屋書店では漫画を取り扱うことになりました。もともと漫画が好きだったので企画書を作って『やらせてください』と」


――どんな企画だったのですか。

「フロアの真ん中に日本を紹介している大きな棚があります。そこには江戸文化を中心とした“過去”がテーマの本が多いのですが、“現在”という部分が欠けていると思った。なので、それを漫画で表現できる企画を提案しました」


――大友克洋さんの『AKIRA』のカラー表紙が並ぶ棚が、美しくて印象的でした。

「実は『AKIRA』は2020年にオリンピックを控えた2019年の話で、限りなく現在に近い未来の話なんです。今の状況と重なっているような予見的な作品です。『AKIRA』が素晴らしいのは、色々な観点から作品を分析できて、自分の世界が広く深くなっていくところ。建築や民話など、一つの作品を起点に様々な発見や知識に繋がっていく。本を読む楽しさって、そういうところにあると思っています」


――どんな人にその楽しさを知ってほしいですか。

「観光で銀座に来る外国人のお客様も多いので、それを意識して作っている棚もあります。有名な漫画やアニメを入口に、まだ知らない日本の作品を知ってもらえたら嬉しいです。一方で、海外漫画にも素晴らしい作品がたくさんありますから、逆に日本のお客様にはそういったものも紹介して、新しい出合いのきっかけを作っていきたいです」


<プロフィール>
美土路奈々(みどろなな)
入社2年目。コンセプトがアートだったことに惹かれ銀座蔦屋書店への配属を希望し、店舗の立ち上げプロジェクトから携わる。現在は漫画担当のコンシェルジュとして選書、イベント企画等を手掛け、新たな切り口での店頭展開を日々考案中


【今月の棚】



一つの棚の前にいろんな世代の人がいるような風景になったらいいな、と思っています。その作家を知っている世代だけが楽しめる棚ではなく、若い世代が昔からある名作を、ご年配の方が今も連載中のような新しい作品を手にとってくれると嬉しいです




【語りたい3冊】



 AKIRA(1)』大友克洋(講談社)中学校一年生の時に出合い、大きな影響を受けた1冊 ◆悒好蹇璽癲璽轡腑鵑鬚發Π貪戞1)』加納梨衣(小学館)80年代のカルチャーに憧れている現代の高校生の話。王道のときめきをくれる少女漫画ですが、懐かしいアイドルの曲やアイテムを通して恋が発展していくところが新鮮です はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』原正人(玄光社)海外漫画を勉強しようと付箋だらけにしながら読みました。一つの作品を複数の視点から説明していて、教材として素晴らしい


<店舗情報>
銀座 蔦屋書店

東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 6F
9:00-23:30


(本稿は10月20日発売『SWITCH Vol.35 No.11』に掲載されたものです)


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本屋のかお――新栄堂書店(東京・池袋)

本棚と書店員。2つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。連載17回目は、新栄堂書店。木を基調とした温かみのある内装はどこかカフェを思わせる。その11坪程度の小さな店舗には70年以上池袋の文化を支え続けた誇りと歴史があふれていた


新栄堂書店が池袋に誕生したのは、戦後間もない1946年。創業者がリヤカーで神田まで本を仕入れに行き、戸板の上に本を並べて売ったのが始まりだという。その後、駅前の本店は2006年の閉店までの60年間、「サンシャインシティ」内でオープン当初から営業を続けていたアルパ店は2017年5月の閉店までの38年間、池袋の書店文化を支え続けてきた。一度は池袋の地から姿を消したが今年7月、駅前の喧騒を離れた南池袋に新たな「まちの本屋さん」をオープンさせた。

――かつては池袋地域で「西の芳林堂、東の新栄堂」と評されるほど、多くの人に親しまれていたと伺いました。

「私が入社したのは1984年ですが、駅前にお店があったこともあり、“置けば売れる時代”でしたね。特にノベルス、中でも赤川次郎や西村京太郎が大人気。近隣に出版社も多かったので、社長さんが様子を見にきて、自社の在庫が切れているとその日のうちに新人の営業さんが納品に来ることも日常茶飯事でした。新刊の数も多かったですが、棚の本はすぐに売れるので置く場所に困ることもない(笑)」

――業界全体が熱を持っていた時代ですね。

「印象的だったのが88年の『アエラ』創刊の時のこと。発売日前日の『ニュースステーション』で久米宏さんが創刊の告知をされたんですよ。これはいいぞと思って、翌朝先輩社員と一緒に店先に即席の露店を作って。『本日、アエラ創刊です!』って声をかけながら売ったら、飛ぶように売れましたね」

――当時と比べ、お客さんの様子に変化を感じることは?

「本屋へ足を運んで、楽しみながら本を選ぶという“本屋で遊ぶ”感覚を失いつつあるのかな。本を読むにも何を読んだらいいのかわからないから、メディアや話題性だけを頼りに本を購入する。自分で吟味した本ではないから、つまらなくても諦めがつかない。そうして、さらに本に向き合う姿勢から遠退いていく。それはある意味で本屋や出版社の責任でもあるのだけれど。最近ではユニークな本屋も増えて、SNSなどで本当に売りたい本を率先して紹介するようになっているから、そういった意味では本屋は原点に戻ってきているのかなとも思いますね」

――人と人の距離が近いこちらの店舗も、良い意味で原点回帰と言えそうです。

「地元の方は『新栄堂』という看板を目にして、よく立ち寄ってくださいますね。この店がスタートを切れたのも70年以上池袋の地でやってきて、地元の人が支えてくれたからという思いがあります。だから、気軽に声をかけてもらえると嬉しいですね。今は『まちの本屋』をやるには難しいこともあるけれど、気張らず、気取らず、“池袋にはあって当たり前の新栄堂”を末永く続けていければ」

<プロフィール>
山口広幸(やまぐちひろゆき)
1961年、新潟県生まれ。大学卒業後、一度就職するも書店業に心惹かれ、84年新栄堂書店入社。本店配属後、新店オープンにあわせ数々の店舗の店長を歴任する。本と車をこよなく愛し、学生時代には自動車部でラリーなどを経験。


【今月の棚】



一つの棚に限ったことではありませんが、新栄堂のモットーは「初心者にやさしい品ぞろえ」。各ジャンルのとっかかりとなるような本を揃えています。あとは、本を読む人にも健全な身体を持って欲しいという思いから、スポーツには力を入れていますね。




【語りたい3冊】



 慍垣逎好函璽ー殺人事件』(新潮社)著=清水潔 桶川とありますが、舞台は池袋。事件を風化させてはいけないと、新栄堂では発刊当初から大切にしています ◆POPEYE 2017年9月号 君の街から、本屋が消えたら大変だ!』(マガジンハウス) 本屋の特集の中でもこの切り口は秀逸。ネガティブな現状をプラスに変えて頑張る本屋の姿は励みになります 『I Love Youの訳し方』(雷鳥社)著=望月竜馬 絵=ジュリエット・スミス 作家の個性や時代背景が端的に表れているユニークな一冊


<店舗情報>
新栄堂書店

東京都豊島区南池袋3-24-15 Wiseビル1階
11:30-20:00/毎週日曜・月曜 定休


(本稿は9月20日発売『SWITCH Vol.35 No.10』に掲載されたものです)


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